INDEX

庇護 7

「……巨人族か……」
強い光を放つ柱の中で蠢く巨大な影。
紫龍は素早く龍座の神聖衣をまとう。
しかし、闇に汚されたパーツをはめた時、腕に激痛が走った。
(闇の力に支配されるわけにはいかない!)
しかし、今度の敵に生身で戦うのは無茶だった。
伝説の英雄と巨人族では、あまりにもレベルが違いすぎる。
巨人は手を伸ばして紫龍を叩きつぶそうとする。
彼は素早く避けたが、巨人の攻撃によって周囲の土地が抉られ岩石が飛び散った。
紫龍は直撃こそ避けられたが、それでも無傷では済まない。
そして彼の攻撃は巨人には通用しないのだ。
どう言うわけだか全ての攻撃が受け流されてしまうのである。
(どうしたらいい……)
このままでは自分の体力だけが消耗するばかり。
その焦りが隙を呼んだのか、紫龍は移動している最中、いきなり出現した呪術の紋様に足を踏み入れてしまったのである。
赤い光が紫龍に降り注ぐ。
彼は全身の力が抜けてしまい、その場に膝をついた。
そして、彼の目の前には赤い光で形作られた人影が見えたのだった。

彼が沈黙していると、人影が紫龍に問う。
その声は、東の地で紫龍の大切な土地に深い傷を負わせたことを詫びていた。
柔らかな女性の声。
一瞬、何の事だか分からない。
ゆえに彼は沈黙した。
「……」
ただ、声の主からは物凄い『力』を感じた。
(女神?)
だが、自分の知っている女神とはずいぶん様子が違う。
お詫びに力を貸すとまで相手は言う。
それは願ってもない話だったが、彼にはそれ以上に気にかかる事があった。
「……貴女がもし力ある存在なら、俺よりも春麗を助けてくれないか。」
深い闇の中で彼女がいったいどうなっているのか。
あの呪術の箱が彼女に害を与えているのではないかと考えると、それだけで心が締めつけられる。
「この戦いに勝利できても……、彼女が居ないのでは意味がない」
すると人影は少しだけ紫龍に近づく。
そして力ある存在は若き聖闘士に『少女には既に素晴らしい守護がついている』と言うのだが、紫龍には何の事だかさっぱり分からない。
「えっ?」
そして その言葉の直後、人影はゆらめき周囲に拡散した。
「貴女は誰なんだ!」
その問いかけに聞こえてきた返事は、
『巨人クリュティオスと宿縁を持つ者』
という言葉だった。

そのまま光が彼の神聖衣に溶け込む。
それと同時に今まで黒く染まっていたパーツは、薄皮が剥がされるかのように闇の成分が砕けた。
龍座の神聖衣はその姿を変え、紫龍に力を与える。
もう彼の身体には、先程まで感じていた痛みは無い。

巨人クリュティオスは赤い光の中から現れた人間に驚いた。
その者から忌ま忌ましき女神の存在を感じたのである。

龍座の神聖衣が変化を遂げ、全体に赤い模様が現れる。
そして巨人クリュティオスは明らかに紫龍に対して落ち着きを失っていた。

「廬山昇龍覇!」

爆発する紫龍の小宇宙。
そしてその威力に添う様に紅き龍が視覚化され、巨人に襲いかかる。
呪術の光を打ち破る小宇宙の炎。
クリュティオスは炎を抱えつぶそうとして、逆に囚われる。
力の差は紫龍から見ても圧倒的な物だった。
まるで巨人が操り人形のように、炎に翻弄されている。
(これがあの女神の力なのか……)
闇を焦がす紅蓮の炎。
巨人の敗北は決定的となる。

そして巨人の断末魔が辺りに響いた時、ようやく炎は鎮静化したのだった。