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庇護 6

「廬山百龍覇!」
龍座の聖闘士の渾身の一撃が、暗黒の闘衣を打ち砕く。
そして傷だらけとなった太古の英雄は、大地に倒れた。

「パトロクロス!」
紫龍はとにかく様子を見る為に彼に近づく。
すると先程まで敵だった青年は、紫龍に向かって微笑んだ。
そして彼は感謝の言葉を告げる。
「……」
そして徐々に消えゆく身体ではあったが、尚も彼は言葉を続けた。

親友の身代わりとなって戦いに赴いた事。
しかし、自分は親友ではないので戦いに敗れた事。
これは英雄に成り代わろうとした自分への罰なのだと……。
あの時自分がしなくてはならないのは、離反したアキレウスに自分の意志で付いてゆくか、自分の名で英雄ヘクトールに戦いを挑む事。
そうすれば少なくともアキレウスが自分の事で苦しむ事は無かったと、彼は言った。

何も言えずにいる紫龍にパトロクロスは言葉をかける。
『素晴らしきアテナの聖闘士。
貴方が自分の中の光を失わない事を願う』

その言葉の後、紫龍の目の前で英雄は消えていく。
残された粉々の闘衣もまた、闇に溶けるかのように消滅。
周囲に静寂が戻った次の瞬間、光の柱から突風が吹き荒れ紫龍は大地に叩きつけられたのだった。

三本目の柱が、揺らぎ始める。
光はうねりながら天へと伸びていた。
デスクィーン島にて問題の場所を探していた冥闘士たちは、一段と島の空気が冥界に近くなって来たことを感じる。

(あれは、確か紫龍の向かった方向だ)
瞬は沙織たちの元へ戻る為に、所々光の漏れる大地を駆けていた。
柱の後始末は冥闘士たちが行うとミーノスに言われたからである。
それに黒の聖域で何が起こっているのかも確認したい。
「……」
一瞬だけ彼は嫌な予感がしたが、それを振り切って脚を早めた。

そしてその頃、後始末をする側は破壊せねばならない場所を特定するのに苦労していた。
何しろ島には建築物らしきものが無く、地下に行く為の道も見つけられない。
そもそも遺跡が有るのかどうかも分からない。
彼らは不安を感じながら周囲を調査していた。

「そんな事が有り得るのですか?」
ソレントが一人の冥闘士に話しかける。
このままではカノンとテティスが危険なので、彼としては早急に問題を排除したいのだ。
海将軍の問いかけを無下に出来ず、クィーンという冥闘士は返事をした。
「そもそも呪術に長けた者なら、対冥闘士用の防衛策を講じている可能性が高い」
そしてそれは冥闘士には分からないようにされているのだろうと、相手は言う。
「……では、他の闘士が探索を行った場合もまた分からないようにされていると思いますか?」
ソレントの問いにクィーンはしばらく考えた後、遠くを見ながら答えた。
「術者の性格による場合が大きいが、相手が冥闘士ではない存在の場合は攻撃する確立が高いと思う。
何しろ相手がどんな資質の持ち主かが予測出来ない。
多分、排除の方向にいくだろう」
その返事にソレントは、先日のデスクィーン島の騒ぎを思い出した。

もしかすると、あれは対海闘士専用の排除システムなのではなかろうか。
(一か八か、やってみるか……)
ソレントはクィーンから尤も気配の強い場所を教えてもらうと、その場所に立った。