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次々と撃破されてゆく巨人族。 母を同じとする兄弟たちが滅びたところで何も思わないが、人間が巨人族に歯向かうというのは何とも許しがたい。 自分たちの圧倒的な力を誇示し人間たちを恐怖のどん底に突き落とさねば、この怒りは治まらない。 彼らはその考えに突き動かされて、本来ならば他の呪術の影響を受けない場所に作らねばならない出口をデスクィーン島に次々と作った。 さっさと倒された他の兄弟たちとは違い、自分ならば見事に人間どもを制圧し他の兄弟たちをも支配できると考えたからである。 |
春麗を抱えたまま、シオンは闇の中を駆け上がる。 呪術の光は不規則に点滅。 だが、聖闘士であるシオンにとって、その場所を避けて移動する事など簡単な事だった。 闘衣の不備も今のところ表面化はしていない。 そして彼は、第6番目の宮を出た直後から自分たちの後を付ける気配に気がついた。 この場合、味方である等という楽観的な事は考えにくい。 シオンは第7番目の宮の入り口に辿り着いた時、春麗をその場に立たせる。 「ここですね」 彼女は仄かな呪術の光で浮かび上がる建築物を見上げた。 「そうだ。 ここで我々は童虎を探さねばならない」 ただ、どうやって見つけ出せば良いのかが分からない。 シオンは春麗の前に手を差し出すと、精神を集中させる。 「……」 すると、彼の掌に小さな光が集まる。 その光の中から現れたのは、一つの首飾りだった。 「春麗。私が出来るのはこれくらいだ」 そう言って、シオンは春麗にその首飾りをかける。 彼女は馴染みのない装飾品を、不思議そうに見た。 「シオン様。これは?」 「シーツァンティェンツゥ」 「えっ?」 キョトンとする春麗に、シオンは首飾りに付いてて簡単に説明した。 「西蔵天珠というものだ。 この大きな飾りは……四線虎牙天珠というもので魔除けの力がある」 シオンが自分の祖国に伝わる魔除けのお守りを出したので、春麗は少し躊躇いながら首飾りを見た。 虎の牙が紋様として描かれている石だという。 「良いのですか?」 大事な物ではないか。 彼女の判断は尤もだったが、シオンは持って行けと言った。 「春麗の親は黄金の虎なのだから、これ持つのに相応しいだろう」 そう言われて、春麗の目に涙が溢れる。 「春麗。今は時間がない。 童虎を見つけるのに集中してくれ。 私はここで少々周囲の様子を見てくる」 シオンは背後の方に視線を移す。 「分かりました」 春麗も状況の緊急性は分かっていたので、涙を拭くと暗い宮の奥を向いた。 「絶対に老師を見つけます」 そう言って彼女は駆け出す。 7番目の宮は天井には呪術の紋様が多かったが、何故か床には大きな模様がポツポツとあるだけ。 だから彼女が行動するには特に支障は無かった。 シオンは春麗を見送ると、宮の入り口の真ん中に立った。 (宮の出入り口は二ヶ所……) 気配の主の出方によっては、春麗をこの場から離さないとならない。 (童虎が分かりやすいところに居てくれれば良いのだが……) そう考えた時、シオンの目の前で少し離れた所で点滅していた光の紋様が歪んだ。 (来たか……) 其処から感じる敵意は、信じられないくらい大きく激しい。 彼は巨人族の出現だと察知した。 |