INDEX

庇護 3

(やはり出てきたか……)
アフロディーテはその二つの気配を、とても良く知っていた。
そして懐かしさと忌まわしさが混濁する。
よりにもよって……と、言いたい。
だが、闘う者たちの気に呼ばれたというのならば、きっとあの二人が出て来る事も予想出来た。

(パトロクロス。親友の為に再び手を汚す事を選んだのか……)

遥か昔、イーデー山にて『彼』は後の英雄アキレウスと闘ったことがあった。
それはトロイア戦争が始まる少し前の事。
英雄の横暴なる振る舞いを止めたのが、彼の親友であるパトロクロス。
武勇に優れた青年だったが、基本的には争いを好まない人物だった。
だが、義に厚い彼は親友と共に戦場に立つ事を選ぶ。
しかし、それが彼の悲劇の始まりでもあった。

紫龍は何度か敵の拳を受けたが、そのつど身体に鋭い痛みが走った。
それは拳の威力とは違い、全身に痛みが伝わるのである。
一方のみをガードすれば良いという問題ではない。
(……)
尚も相手は虚ろな眼差しで紫龍の事を見ていた。
(いったい何者なんだ?)
知彼知己、百戦不殆。- 敵を知り己を知らば、百戦危うべからず -
老師からそう教わったが、不気味な事に相手の闘士から意思力のような物が感じられない。
まるで操り人形と闘っているかのような気になる。
しかし、それでも強敵には違いない。
相手は紫龍の攻撃を巧みに避けていた。
「!」
しかし、激戦を戦い抜いた龍座の聖闘士は、相手の動きが奇妙であることに気付く。
ただ彼の攻撃を避けるにしても、動きが大きいのである。
そしてその割には紫龍に対する攻撃は的確。
何処かチグハグだった。
もう一つは、その闘士が紫龍の拳を避ける時、何か空気の抵抗のような物を感じるのである。
(闘気とは違うのか?)
相手が人間なのか人形なのか。
紫龍はとにかく敵を捕らえてみることにした。
危険ではあったが、このままでは埒があかない。

「廬山龍飛翔!」

紫龍の技が炸裂した時、初めてその瞳に意志のような物が見えた。

闇の中に浮かび上がる光の紋様。
黒の聖域にある第五の宮には人の気配はない。
いくら女神の命とはいえ、シオンはこの場所で魔鈴がアイオリアを探し出せるのか、一抹の不安を覚えた。
しかし、これ以上聖闘士の生命と引き換えに太古の女神を味方に得ては、女神アテナの威信にも傷がつく。
それは何としても阻止せねばならない。
「鷲座。我々はこれから天秤宮へ向かう。
後は頼んだぞ」
シオンはそう言うと、春麗を抱き抱えたまま出口に向かった。

魔鈴は一人残されると、建物の中を見回す。
人の気配はしない。
(さて、どう探したものか……)
彼女はとりあえず建物の様子を調べる事にした。
あまりにも静かで生き物の気配がない。
本当にこの場所に彼が囚われているのかすら、疑ってみる必要が有りそうに思えた。