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庇護 2

目の前で光を放つ巨大な柱。
星矢はその大きさに、ただ唖然としていた。

「もしかすると海底神殿の柱よりも大きくないか?」
そして遠くでの柱の消滅という二度の変動で光の量は減少傾向に有り、先程まではっきりと見えていた翼ある馬の影は何処かぼんやりしている。
「……」
何がこれから起こるのだろうか?
闘う時は共に有ったペガサスの聖衣は、今は聖域である。
だが、自分がもし神聖衣となった存在に試されているというのなら、その試練に見事に打ち勝たなくてはならない。
星矢は自分の手を見つめた後、何度か掌を握った。
(……なんだ? やたらと胸騒ぎがするぞ)
緊張とも取れるが、とにかく何か得体の知れない不安が沸き上がる。
それは聖衣をまとわないゆえなのか。

聖闘士の強さは小宇宙の強さ。
それが無ければ、聖衣はただのプロテクターに過ぎないと師匠の魔鈴から教わった。
あの激戦ともいうべきエリュシオンの戦いも乗り越えた。
なのに何故、自分はこんなのも動揺しているのだろうか?
聖戦の時に冥界へ向かった時、前に進むことのみを考えれば良かった。
だが、今は何か違う。
強いて言えば、此処に居る場合ではないという感覚だった。
しかし、沙織の傍には黄金聖闘士たちがいる。
戦いに赴いた時から、聖衣無しで行動する事は覚悟の上だ。
なのに何故、こんなにも不安なのだろうか?

星矢が天を仰いだ瞬間、柱から幾つもの光が迸った。

光の柱から一人の人間が紫龍の方へ近づく。
そして先制攻撃とばかりに、彼に対して一撃を放った。
紫龍は僅差で攻撃を避けたが、彼の背後で大地が裂ける。
その人物のまとう闘衣は、龍座の神聖衣に良く似ていた。

「何者だ!」
紫龍の問いに、相手は立ち止まる。
しかし、謎の闘士は何も言わない。
この時、紫龍は彼の表情に違和感を感じた。
その闘士は何処か虚ろな目をしていたのである。

同じ頃、シオンは春麗を抱えて闇の十二宮を駆け抜けていた。
だが、もうすぐ獅子宮であろう場所に辿り着くという時、彼の腕に激痛が走った。

「!」
その痛みが何であるのか分からず、シオンは立ち止まると春麗を呪術の描かれていない場所に下ろす。
「シオン様?」
春麗は不安げに彼の事を見る。
魔鈴の方は何も言わずに二人の傍に立っていた。

シオンは何も言わずに、何度か手を動かした。
「……」
もう一度動かそうとした時、彼は指が上手く動かないことに気付く。
闘衣が何か上手く出来ていないかのようにも思えるが、原因について思い当たる物が無い。
(欠陥品か?)
彼は再び手を動かす。
すると今度は滑らかに指が動いた。
(動きに差し障るのあるモノでは、戦闘状態になった時に危険だな……)
一瞬のミスが命運を分けかねない。
(それがあの場所に隠されていた理由なのか?)
とにかくシオンは覚悟を決めると、再び春麗を抱き上げた。
次の宮にはアイオリアが捕らえられている筈である。
鷲座の白銀聖闘士は、そこで黄金聖闘士を探すために自分たちから離れる。
そうなれば、今度は自分だけで春麗を闇の天秤宮へ連れて行かなくてはならない。

闘衣の不備に今頃気付いたからといって、引き返すわけにはいかない。
ならば力業ということになっても、この武具を使いこなすのみ。

そして三人の目の前に、呪術の紋様が幾つも輝く5番目の建物が見えてきたのだった。