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断片 6

巨人ヒュペリビオスは目の前の人間が甘言につられないと分かると、その手を伸ばした。
傲りによる精神の波長が合う人間ならば彼も操るのが楽だったが、そうでないのならば利用価値は無い。
さっさと排除するだけである。
だが、その人間に手こずっていた。
いくら手を伸ばしても、小さき者を掴めないのである。
そして周囲に現れる幾つもの光が、彼の身体に吸い込まれ身体の中に衝撃が走る。
ヒュペリビオスは自分の身に何が起こっているのか分からずにいた。

そしてカノンの方も、この島に張り巡らされた呪術が自分の技と影響し合っている状態を見ていた。
何故そうなるのかは分からない。
だが、アナザーディメンションによって開かれた異次元の世界は、巨人の居る穴を呑み込み始める。
それに加えて島の大地に現れていた光の紋様が、その中に歪んで吸い込まれていくのだ。
既にカノンの理解の範囲を超えている。
近くで大地のひび割れる音を聞いた時、彼はこの場を離れなければと判断した。

巨人の居た穴が急速に広がり始める。
二人はその場から離れたが、周囲を巻き込む空間異常の現象は素早かった。
あっと言う間にテティスの背後にまで及ぶ。
「テティス。来い!」
腕を掴んで引っ張るのも面倒になって、彼はテティスを抱える。
「シードラゴン様!」
「喋るな!」
ただでさえペイリトオス戦で、この付近の空間は異様な力を加え続けられていたのだ。
不安定な場所を出口を設定した巨人は、名の通り自分の力を傲っていたのである。
今まさに、ヒュペリビオスは自分の作り上げた通路ごと、カノンのアナザーディメンションによって出来た空間の亀裂に飲み込まれようとしていた。
そしてその亀裂は地表から雪崩込む光と融合し、カマイタチのように巨人に襲いかかる。
巨人は痛みのあまり地母神に救いを求めた。

周囲に広がり始める大地の穴。
別地点の呪術の光が溶け込み火花を散らす。
しかし、その力は徐々に弱くなったのか、穴はそれ以上拡散できずにいた。
カノンは小高い丘の上からテティスを抱えたまま、その穴の中を見つめる。
(……)
この光景に二人とも言葉が出ない。
その穴には細かい光がきらめき、地上に出現した宇宙空間の様だったからである。
しかし、それも短い間の話。
光は中心から徐々に少なくなり、しばらくして完全に消えた。
周囲は完全に闇に閉ざされ、彼らのいる場所は先程の戦いが嘘であるかのように静寂に包まれたのだった。

ミーノスの許に現れた、十数名の冥闘士たち。
その中にはハインシュタイン城に居たミューの姿もある。
このタイミングの良さに、彼は少しだけ驚きながらも理由を聞く事を省いた。
勝手なことをする部下たちではないので、アイアコスとラダマンティスが此処に来させた事は分かっているからだ。
彼はある意味、何事も無かったかのように彼らに命令を下す。
「この島には冥界に影響を与えるモノがある。
とにかく幾つかに分かれて探索。見つけ次第、破壊をする事」
そしてミーノスは彼らの力量と能力の性質ごとにグループを作って、調査を命じる。

その時、彼らは自分たちの他に誰かが近くに居る事に気がついた。