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異空間に封印されたアイオロスは、脱出しようと足掻くのを止めて静かに天を見上げていた。 先程から自分の周囲を光が走る。 何かが自分の居るこの空間に作用しているのかもしれない。 (もうすぐ決着がつく……) 思い出すのは、初めて射手座の聖衣を得た日の事。 彼が賢者ケイローンに会った日でもある。 静かに語られる過去の罪。 その半人半馬の賢者は自分のした事を非常に後悔していた。 そしてアイオロスもケイローンのした事は酷い事だと思っていた。 「貴方はご自身の弟子を信じるべきでした」 幼い黄金聖闘士の言葉に、賢者は静かに頷いた。 |
海の女神テティスの宿命。 それは夫となるべき男性よりも優秀な子を生むという事。 だが、相手が死すべき定めの人間ならば夫にしても良いと大神ゼウスから許可が下りた。 ケイローンは自分の弟子達が女神テティスに恋い焦がれて居る事を知り、二人のうちの片方に女神テティスを妻に出来る方法を教えた。 ケイローンが教えたのは英雄ペーレウス。 彼は後に女神テティスを娶る。 もう一人の青年カストールに教えなかったのは、彼と女神の間に生まれた子供というものに得体の知れない恐怖を感じたからである。 不死である自分を恐れさせるもの。 それは予測の出来ない未来だったのかもしれない。 しかし、現実はもっと予測の出来ない事態へと突き進んでいた。 カストールの弟であり同じ弟子であるポリュデウケースが人間たちの敵に回ったのである。 二人の妹を失った不死なる神には誰の声も届かない。 そして英雄たちはトロイア戦争で、一人また一人と倒されてゆく。 まるで何かが彼らを生贄に捧げて、女神の怒りを解こうとしているかの様だった。 その女神はポリュデウケースにとっては母神であったのかもしれないが、ケイローンにとっては女神テティスのように思えてならなかった。 「もし彼らに会う事あっても、私は成り行きにまかせます。 ケイローン様も手出しは無用です」 予言の術を継承させられた射手座の黄金聖闘士の言葉に、賢者は頷いた。 そして若き闘士は眠り続ける女神の方を見た。 「女神ネメシス。 貴女の息子たちは、ずっと私の友達です」 そう言った後、女神ネメシスの表情が柔らかくなったような気がした。 |
「結局、カノンとはあまり話が出来なかったなぁ」 向こうに避けられていた気もするが、サガの方も不安定だった。 弟の存在が他に知られるのを極端に嫌がっていた節がある。 「兄弟というのはやっかいだな」 アイオロスは自分の弟の事を思い出して苦笑した。 何度も彼に聖域の危機を告げるべきか迷った。 しかし、それは出来なかった。 弟は嘘をつけない。 そして教えようものなら、彼は正義感から聖域そのものを壊しかねない。 他の黄金聖闘士の仲間と共に……。 自分たち兄弟のみの問題ではなくなる事は、予言の術を使わずとも彼には簡単に推測できた。 |