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断片 3
「シオン様……」
春麗はそう言った後、黙ってしまった。
「心配をかけたな。 どうも私はこの闘衣に見込まれたようだ」
そう言って彼は自分の身につけている鎧を見回した。
(どのような材量を組み込めば、ここまで軽量化が出来るのだろうか?)
闇の闘衣は技術者であるシオンにとって、驚くべき存在だった。
とにかく鎧とは思えないほどの軽さなのだ。
だが、触れてみると確かにそれは硬い材質に違いない。
「春麗。少々すまないが、じっとしていてくれ」
そう言ってシオンは彼女の方に手を伸ばす。
春麗は彼の言う通りにじっとしていた。
(再び反発が起こるのだろうか?)
しかし彼には妙な確信があった。
(同じ性質ならば……)
多分、箱は自分に対して攻撃してはこない。
むしろ自分が光の側の人間だからこそ、最後の足掻きとして闇の闘衣のヘッドパーツを台座に叩きつけて埋め込んだ。
其処までまとえば、自分が闇に同化してしまいそうな気がしたからである。
そしてシオンの手が春麗の肩に触れる。
箱から反発は感じられない。
ただ、シオンは腕に疼きのようなものを感じたが、それは直ぐに治まった。
「よし、春麗。私に掴まっていろ!」
そう言って、シオンは彼女を軽々と抱き上げると、光の紋様を飛び越え闇の白羊宮を駆け抜けた。
魔鈴もその後に続く。

闇の十二宮を照らす光は、徐々にその輝きを弱めつつあった。

二つ目の振動が、闇の神殿に到達する。
壁に出現していた紋様の幾つかが消え、幾つかの発光が弱まる。
そして彼らの床には、今まで見たことも無い模様が薄く現れた。
「なんだこれは」
デスマスクの言葉にアフロディーテも模様を見たが、呪術に詳しいわけではないので答えられない。
そしてポリュデウケースが親切心を出してくれるわけがない。
しかし、ここで答えられるのは彼しか居ないのも事実だった。

「ポリュデウケース。自爆装置でも発動させたのか?」
デスマスクの容赦ない問い。
魚座の黄金聖闘士は思わず、彼の心臓に白薔薇を投げてしまいそうになった。
『……』
だが、ポリュデウケースは沈黙したまま床を見つめる。
何度か僅かながらに出現するそれを見た後、彼は楽しそうな笑みを浮かべた。
『何者かがここに道を作ろうとしている』
彼の記憶の奥底にある、より古い時代の呪術の紋様。
それを使えるのは地母神ガイア等の太古の女神たちか、それとも“そういう女神たちを信仰していた者”しか彼には思い当たらない。
そして彼は気付いたのである。
このデスクィーン島にあった正体不明の遺跡の意味に……。

(なる程。この黒の聖域を起動させたことで、あの遺跡もまた目覚めたのだろう)
数日前に破壊された場所も大きかったが、それ以外にも何処かに有ったのかもしれない。
しかし、そう考えると規模は島全体に行き渡っていてもおかしくはない。
なのに、そこまで力のある建築物に自分が気付かなかったというのは変だった。
そしてタイミングよく黒の聖域に呼応するかのように、動き始めたというのも作為的なものを感じずにはいられない。
実際、彼は何者かが意図的にデスクィーン島に張り巡らされた呪術に手を加えたと考えた方が納得出来た。
心当たりがあったからだ。
(師ケイローン。貴方だな……)
多くの英雄を育てた、善良にして優秀なるケンタウロス。
ポリュデウケースは再び床に現れた紋様を見つめた。