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シオンに集中する闇の力。 彼は息苦しさを感じた。 そして自分の中に何かが入り込もうとしているかのような不快感。 とにかく、まとわりつくモノを蹴散らしたかった。 (闇を制御せねば……) 例えそれが聖闘士にとって難しいことであろうとも、やらねばならない。 彼は意識を集中する。 先の聖戦の時、冥王が与えた漆黒の聖衣を扱った。 その感覚を思い出す。 闇を払うのではなく、その存在を認める。 (不用意に闇に近づいてはいけない……。だが、無視するわけにはいかない!) シオンが自らの小宇宙を身体から立ち上らせる。 すると彼の許に集うていた闇が、少しずつ形を取り始めたのだった。 シオンが真っ暗な部屋の中に入ったきり出てこないので、魔鈴は慎重に部屋の中を覗き込んだ。 しかし、先程まで判明していた教皇シオンの気配がいきなり消え、視覚で部屋の様子を伺っても何も見えない。 (何があったんだ?) 女性聖闘士の様子に春麗も不安を覚える。 しかし、しばらくして部屋の中から何か高い音が聞こえてきた。 「!!!」 静かな場所での大音響だったので思わず春麗は驚いて箱を落としそうになり、魔鈴は部屋の中に入ろうとしたのだが……。 「驚かせたようだな」 そう言って部屋から出てきたのは、真っ黒い闘衣をまとうシオン。 牡羊座の聖衣に似て非なるモノの存在に春麗は状況が飲み込めず、魔鈴はただ沈黙していた。 |
(……) 龍座の聖闘士である紫龍は、島の外れと言っても良いくらいの場所で柱の様子を確認していた。 目の前の光はとてつもなく大きく、その中で龍の影がちらちらと動いている。 (どうしたら良いのだ……) ただ其処に有り続ける現象。 実は先程、一度だけ地鳴りが聞こえてきた。 しかし、柱は光の流れが乱れただけ。 大地にも異変は起こらなかった。 そして柱の中心は、手を伸ばしても見えない壁に阻まれて触れることは叶わない。 緊張と静寂の中、若き聖闘士の脳裏に一人の少女が思い浮かぶ。 (春麗……) 今の彼女は呪術の媒体である箱を抱えることに精一杯で、身を守ることが出来ない筈。 抑えきれない怒りを正体不明の壁にぶつけようと拳を握りしめた時、再び地鳴りが聞こえてきた。 そして突風が紫龍に襲いかかる。 「うわっ!」 その衝撃の激しさの後、彼の耳に何かが割れる音が聞こえてきた。 |