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エリュシオンへ向かう時は、例えその先に何が待っていようとも覚悟の上だった。 だが、今の氷河はアイザックを探す反面、言い知れぬ不安に苛まれていた。 それは、彼がもうこの地上の何処にも居ないのではないかというもの。 少し前まで、兄弟子は破壊された大地に立っていたのだ。 (アイザック!) あの時と同じ事がもう一度起ころうというのだろうか。 光の空間で氷河は翼や身体に抵抗を感じながらも動き回る。 浮いているような、突如としてクッションのような弾力を感じながら、徐々に下へと下がる。 だが、下に向かうにつれて、自分の身体が落ちて行くような加速を感じた。 あまりにも下がれば、そのまま穴に吸い込まれて二度と地上へは戻れないかもしれない。 そんな事を考えながらも、尚も彼はアイザックを探した。 |
アグリオスとの戦いが行われた場所は、光の柱が崩壊し付近の大地から白い煙が吹き出していた。 そして巨人によって強制的に開かれた穴は、少しずつ閉じようとしている。 空間が安定し始めたのである。 |
しばらく下がっていると、氷河は頬に冷たい感触を受けた。 氷の粒が当たったのである。 (まさか!) 彼は周囲を見回すと、上から氷が流れてくるのが分かった。 意を決して彼は駆け上がる。 すると光の中を漂っている人影を見つけた。 直感で目的の人物だと分かった彼は、素早くその身体を捉える。 そして上へと向かった。 今は彼の容体を確認する暇は無い。 下に下がりすぎているのか光の流れによる抵抗が強いのだ。 だが、ある時から光は少なくなり、今度は周囲が暗くなっていく。 (なにっ!) 氷河は頭上の光が徐々に小さくなっているのに気がついた。 もしかすると間に合わないかもしれない。 その時、彼は自分の抱えている闘士が動いたことに気がついた。 「アイザック! 気がついたか」 顔も見ずに氷河は喜びの声を上げる。 しかし、相手の言葉には苛立ちがあった。 「氷河……、俺に構うな」 「アイザック!」 「お前だけなら……間に合う……」 「断る」 「あの少女を悲しませるな……」 一瞬、氷河は沈黙した。 しかし、アイザックを見捨る事など出来ない。 そしてこういう時に限って、アイザックが絵梨衣を抱き上げていた“あの場面”を思い出してしまう。 「それについてはこっちもアイザックに聞きたいことがある。 だから何がなんでも一緒に来てもらうぞ」 氷河の強い口調にアイザックは何も言わない。 再び腕に重みを感じたので、もしかすると気を失っているのかもしれない。 (絶対にアイザックと二人で戻る!) その時、白鳥座の神聖衣とクラーケンの鱗衣から青白い光が零れ始めた。 |