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敵の姿を捉えたのならば、もう迷うことは無い。 アイザックは自分の必殺技を、その一点に向けて放つ。 「オーロラボレアリス!」 彼の技に追従するかのように、柱から流れ込んだ光が動く。 そしてその力は拡散する事無く、一直線にアグリオスの身体を貫いた。 周囲に響きわたる絶叫。 だが、巨人は尚も地上を目指そうと足掻く。 クラーケンの鱗衣が激しい光を放ち始め、周囲の気温が下がり始めた。 (……根比べだな) 巨人が体勢を建て直す前に、叩き落とさなくてはならない。 (ならば引き離す!) そしてクラーケンの海将軍は小宇宙を高めて、巨人の手足を凍らせ始める。 しかし、相手も『野蛮な男』と言われる者。 叫び声をあげながら、自分が凍りつくことを防ごうとする。 そして自分の登っている崖に、自ら拳を打ちつけて落下を防ごうとし始めたのだが……。 「!」 アグリオスが崖に作った亀裂から光が迸る。 解呪の完了していない光の柱のエネルギーが吹き出したのである。 そしてその光は一気に拡散して、アイザックとアグリオスを呑み込んだ。 巨人の断末魔が響きわたる。 「アイザック!」 氷河は反射的に光と力が濁流の如く荒れ狂う空間に飛び込む。 運命の女神の制止を振り切っての行動だった。 (今度こそ助ける!) それは昔、幼かった自分が出来なかった事。 (アイザック。何処だ!) しかし、既に彼らの居たであろう場所は破壊し尽くされていた。 |
その異変は当然のように沙織たちのいる場所に振動を与えた。 咄嗟にアルデバランが突風から沙織を守る。 そして沙織は、自分の持っている杖を見た。 女神ニュクスの杖は、まだ力を取り戻してはいなかった。 |
異変が発生した二本目の柱。 冥界の空気が震えた。 「これは……いったい……」 バジリスクの冥闘士 シルフィードは柱の現象に驚きの声を上げる。 そして他の冥闘士達も、事態の異様さに呆然としていた。 だが、そのうちの一人が呟く。 これは、オーロラなのかと。 「オーロラだと!」 冥界の暗い空に広がる光のカーテンは、拡散せずに柱を包み込むようにグルグルと回転していた。 その現象は冥界という世界には不似合いなくらいに華麗。 しばらくして光の幕は冥界の大地に到達したが、特に異変は感じられなかった。 ただ、一瞬だけ大きな手のようなモノが彼らの目に映ったが、それは幕を突き破ることが出来ずに冥界の更に下の方へと落ちていったのだった。 |