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握手をする。 それだけの事で、力の移行は行われた。 二人の手から眩しい迄の光が放たれる。 「アイザック……」 「……柱の方は任せたからな」 そしてその輝きが納まった直後、彼はあまり表情を変えずにアグリオスが出てくるであろう地点へと歩き始めた。 氷河は運命の女神に柱に近づくよう言われる。 その時、彼は声が単一である事に驚いた。 「まさかアイザックの方に!」 だが、アイザックの方に二柱の女神が移動したからといって、氷河にはどうする事も出来ない。 彼に出来るのは、素早く柱に仕掛けられた呪術を女神と共に解呪する事。 氷河は柱の前に立つと、両手を前に出した。 彼の腕から柔らかな青い光が柱に吸い込まれて行く。 氷河はその時、鈴の音のような女神の歌声を聞いた。 |
(これは……かなりの負荷だ……) 女神たちを受け入れた直後、アイザックは体に激しい痛みを感じた。 特に失ったはずの左目が熱い。 それと同時に身体がバラバラに引き裂かれそうな感覚。 しかし、それを氷河に知られるわけにはいかない。 そしてクラーケンの鱗衣が水滴を滴らせ光を放ちながら、その姿を変えようとしている。 (鱗衣は変化する事で女神の力を受け入れている) 自分の鱗衣はどれ程の力を秘めているのか? (だが、恐れる事は無い) そう思った瞬間、 『大丈夫……』 と、誰かの声を彼は聞いた。 瞬時に運命の女神たちの声かと思ったが、何か懐かしい。 (?) 彼は一瞬だけ聞こえた声に力を得て、何とか目的の地点まで歩いた。 「暗いな……」 強制的に作られたのであろう巨人族専用の道。 そこは光を全て吸い込んでいるのでいるか、中の様子がアイザックには分からない。 だが、眼下に感じる強大な生き物の気配。 それがアグリオスのものであることは、想像に難くない。 「……」 女神たちはアイザックに問う。 その声は先程聞こえたものとは違っていた。 だが、彼にとってそれはどうでも良いことだった。 実は巨人族は地母神ガイアの庇護を得ているので、今の段階で普通に一撃を加えても向こうはしばらくすれば回復してしまう。 女神達の出した一番確実な案は周囲に呪術を張り巡らせ、地母神ガイアに手を出させないという下準備が必要だった。 しかし、正直言って時間が足りない事と新しい呪術を作動させるには光の柱が近すぎる。 お互いに影響し合う危険もあった。 そこでもう一つのかなり荒っぽい手段がアイザックの前に示される。 それは膨大な力で強引に巨人を叩き落とす事。 しかし、この場合はアイザックの小宇宙の力が成功の確率を左右する。 下手をすれば彼自身の方が地上から消えてしまう恐れがあるのだ。 「貴女方の不安も分かるが、ここは俺を信じてもらうしかない。 アグリオスは確実にタルタロスに落としてみせる」 クラーケンの海将軍は、躊躇うことなく後者を選んだ。 |