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盟友 1

アイザックは光の柱を見つめる。
「時間稼ぎは俺がやろう。 お前はこの柱を何とかするんだ」
その言葉に氷河は驚く。
「アイザック!
お前を闘わせるわけにはいかない」
運命の女神たちの協力が無くては巨人と真っ向から闘うことは出来ない。
地母神ガイアが向こうの味方をしているのである。
いくら海将軍でも、ただの人間でしかないアイザックの技が巨人に効く確率は低い。
「氷河。
その甘い考えで再び仲間を危険に晒すのか」
既に光の柱のすぐ傍の土地は黒ずみ、そこから獣の声が聞こえてくる。
その時、氷漬けの光の柱が細かく震え、重複する女性の声が周囲に響いた。

「運命の女神たちだ……」
氷河の言葉にアイザックは柱の方を見る。
当の女神たちはアイザックを“北海の幻将軍”と呼んだ。
そしてある方法を彼らに提示したのである。
それは彼女のうちの一柱か二柱がアイザックに力を与え、そして最初の一撃でアグリオスを倒そうというのだ。
彼の称号であるクラーケンは、未だに人間たちに正体が知られていないという希有な存在。
名は持てど姿も性質も固定されてはいない。
神の力で鱗衣が変貌を遂げても、彼も鱗衣も受け入れられる力量がある可能性が高いと言う。
そして身体の耐久が限界に来ている氷河に、アグリオス戦は危険すぎると彼女たちは判断したのである。
それに早く柱にかけられた呪術の解除をしないと、行き場の無い力の流れが今にも爆発しかねなかった。

海の中では空間の歪みの一つが振動を起した後消滅。
そしてもう一つが激しい海流を巻き起こしていた。
どちらも海闘士や周辺の海底に被害を及ぼしている。

「もしかして島の異変と同調しているのか!」
クリシュナは荒ぶる水流の中で、平然と立っていた。
「それとクラーケンがどうやら島に向かったらしい」
カーサもまた、周囲の異変に動揺してはいない。
ただ、二人とも海底図を広げることだけは断念した。
「そうか、やはり行ったか……」
クリシュナは少し前にカノンから依頼された事を思い出した。

それはアイザックにも選択肢を与えるという事。
海将軍として責務を全うするか。
聖闘士であった過去を守るか。
決してアイザックを信じていないのではない。
ただ、大義名分の名の許に自己の感情を潰したのであれば、いずれその喪失は彼の心を蝕む。
自分の中で折り合いを付けるには彼は若すぎたし、過去の思い出は優しすぎた。
「自己満足かもしれないが、あれにも自分で決断をさせてやってくれ」
カノンは苦笑しながらクリシュナにそう言うと、テティスと共に島へ向かった。

「とにかくクラーケンも島側からフォローしてくれるだろうよ」
カーサはそう言って笑うと、そのままその場を離れた。
クリシュナは再び周囲の様子に気を配る。
彼らはやはり、海流の激しい動きをものともしなかった。

─ これが海将軍と海闘士の違いか ─
この様子に多くの海側の雑兵たちは、自分たちの上司に尊敬の念を抱く者が多かった。
何しろ彼らは流されまいと、その場の岩などにしがみつくのに精一杯だったからである。

「良いだろう」
アイザックは女神たちの提案に躊躇うことなく了承した。
「……」
氷河には、もう彼を止める術は無い。