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続々・花籠 8

少女はシオンの顔を見つめる。
そして何処か懐かしそうな笑みを浮かべた。
「ところで貴方も、あの後大変じゃなかった?」
「……?」
「あの時の私は意識が無かったから、後で話を聞いたのだけど……。
ごめんなさいね。 律儀な貴方のことだから、自分から率先して動いてくれたのでしょ。
他の方たちから責められなかった?」
ここまで突っ込んだ話をされても、シオンには全然分からない。
「済まないが、私を誰かと間違えているようだ」
すると少女はにっこりと笑った。 花が咲いたかの様な可憐さだった。

この時シオンは彼女が確かに何かを確信して話をしていると思った。
こういう思い込みをされている時は、無理に否定をしても無意味。 彼はそう納得する。
「……ありがとう。 彼らを信じてくれて。
私の宝物を助けてくれて感謝します」
この時、海から風が吹く。

「聖闘士として当然のことをしたまでだ」
彼は自然とそう答えた自分に驚く。
(彼女はいったい何者なんだ?)
むしろ自分の方が聖域ではない別の場所に迷い込んだ様な気すらしてくる。
「でも、これだけは覚えていて。
聖闘士は光の闘士。不用意に闇に近づいてはいけない。
貴方たちにとっては海の深さも闇の濃さも危険なの。
深入りしたら引き返せなくなるから気をつけなさい。
特に血気盛んな青銅聖闘士達は無茶をやるから注意した方が良いわ」
少女の表情は、まるで心配性の母親のようだった。
「ご忠告、肝に銘じよう」
何となく納得してしまうシオンだった。

「さて、もうそろそろ私も此処を立ち去るわ」
少女は腕を伸ばして背伸びをする。
「立ち去る?」
「旅に出るの。東へ行ってみるわ」
「一人で行くのか?」
彼の言葉に少女は少し寂しげに微笑んで頷いた。
これ以上話を進められず、シオンは沈黙する。
そして彼は少女の別れ際の言葉に驚愕した。
「牡羊座の黄金聖闘士。 最後に貴方と話ができて本当に良かったわ」

シオンが慌てて彼女の腕を掴もうとしたが、一瞬遅く彼女の姿は掻き消えてしまった。

(逢えるわけが無いのに……)
美穂は何だか悲しくなって涙が零れそうになった。

場面はいつの間にか星の子学園になっている。
自分は小さな子供だった。
そして学園に新しい子供がやって来たという。
どんな子供が来たのか興味がわいて窓から外を見た。
すると門の前に車が止まり、そこから出てきたのは自分よりお姉さんみたいな少女。
そして次に出てきたのは、腕白そうな子供。
(彼だ!)
向こうも自分の事に気がついたらしい。
少女の手を振りほどいて自分の所へ駆けてきた。

「……」
美穂の唇が動くので、彼は耳を近づける。
かすかに聞こえてきたのは、彼女の幼なじみの名前だった。