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続々・花籠 6

闇が溶け込んだかのような色と言うべきか。
(これは……)
微妙に牡羊座の黄金聖闘衣とは違う造形なのだが、シオンは何処かで見たことがある様な気がしてならない。
(……?)
聖衣の修復を長年やっていた経験上、闘衣を見ればある程度の性質は分かる。
しかし、目の前にあるモノからは特に何も感じない。
一般的な装飾品でも、この闘衣よりは存在感が在るだろう。
つい、本当に闘いの時に身にまとうものなのだろうかと考えてしまう。

(今、これに関わるわけにはいかない)
理性はそう告げる。
ところが再び春麗たちと先へ進もうとした時、彼の脳裏にある考えが過る。
(この闘衣で、春麗を抱えて前へ進められたら……)
このままでは童虎の所へ春麗が辿り着くには、かなりの時間が必要だった。
そして彼女自身が自分たちと一緒に動けない事に焦りを感じている。

(しかし、この気配の無さは何なんだ???)
それに関しては気にならないわけではない。
シオンはとにかく触れてみようと手を伸ばした。
と、その時、彼は誰かの声を聞いた。
『聖闘士は光の闘士。不用意に闇に近づいてはいけない』
反射的に手を引っ込めようとした瞬間、部屋の中の闇がシオンに集中した。

ムウは暗黒の十二宮を見る。
(……)
周囲を照らす光の紋様が不安定な点滅を繰り返していた。
そのうち何度かは光そのものが弱くなっている。
(呪術が弱くなっているのなら分かるが、ヘラクレスの矢の効果が低下しているのだとしたら……)
聖闘士たちは呪術を視覚で認識しているのだ。
効果が切れた途端、此処にいる者たちは呪術の餌食になる。
それは火を見るより明らかだった。


聖域の上空を大勢のカラスが飛ぶ。
そして彼らは目ざとく光る大地を見つけると、その周囲をグルグルと回っていた。
警備の任についていた聖闘士たちは、ジャミアンのカラスを目印に謎の光の所在を確認していた。

次々とやってくる雑兵たちの報告。 ダイダロスは地図に記録してゆく。
光る場所の在り処は点在していた。
(個々に聖闘士たちを配置したところで、それ以上の数で出現したらお手上げだ)
しかし、今の聖域に呪術を関わらせるのは大地の女神たちへの負担が大きい筈。
(このうちの過半数……。 いや、目的の場所以外はダミーかもしれない。
何か区別出来る特徴が見つかれば……)
しかし、自分がこの部屋を出るわけにはいかない。
ダイダロスはオルフェを引き止めれば良かったと後悔した。

そして当のオルフェの方はというと……。
「やはりそうか……」
彼の呟きに、傍にいた御者座のカペラは光る大地を見た。
「オルフェ。今の光は何だ?」
「……それは僕にも分からない。
だけどこれだけは言える。
竪琴の音色に反応する場所としない場所がある」
そして彼は再び竪琴を奏で始めた。
しかし、光は点滅を繰り返すのみで、それ以上の事は起こらない。
「とにかく全部が同じでは無いことだけは分かった」
オルフェは雑兵を呼ぶと、この事をダイダロスに伝えるように言う。
彼は一礼するとその場を離れた。
「そういえばカペラは獅子座ではなかったか?」
「そうだが」
「一人で行動するなと連絡は来なかったか?」
「……」
「わざと囮になって相手をおびき寄せるつもりだな」
あまり良い方法ではないが、このような事態に獅子座の聖闘士にもう一人誰かを一緒にさせるのは確かに効率が悪い。
オルフェはため息をつくと、カペラに無茶なことはしないようにと言う。
「自分が狙われていると察知したら、一人で行動は起こさないでくれ。
それは約束できるな」
カペラは何も言わずに首を縦に動かした。
その時、近くに木に一羽のカラスが止まる。
(ジャミアンがフォローに回ってくれたか)
琴座の白銀聖闘士は彼らの決断を信じることにして、別地区の光の出現場所に向かう。
カペラはカラスの方を一度見た後、円盤を握りしめながら光る大地に近づいた。


ギリシャに向かう飛行機の中では静けさと緊張が満ちていた。
客室乗務員が美穂の横に居る男性に毛布を渡す。
彼はそれを受け取った。
その時、彼は美穂が涙を零している事に気がついた。
「……」
彼は涙を拭おうと手を伸ばす。
しかし、彼女に触れる事を寸前で止めたのだった。