闇が溶け込んだかのような色と言うべきか。
(これは……)
微妙に牡羊座の黄金聖闘衣とは違う造形なのだが、シオンは何処かで見たことがある様な気がしてならない。
(……?)
聖衣の修復を長年やっていた経験上、闘衣を見ればある程度の性質は分かる。
しかし、目の前にあるモノからは特に何も感じない。
一般的な装飾品でも、この闘衣よりは存在感が在るだろう。
つい、本当に闘いの時に身にまとうものなのだろうかと考えてしまう。
(今、これに関わるわけにはいかない)
理性はそう告げる。
ところが再び春麗たちと先へ進もうとした時、彼の脳裏にある考えが過る。
(この闘衣で、春麗を抱えて前へ進められたら……)
このままでは童虎の所へ春麗が辿り着くには、かなりの時間が必要だった。
そして彼女自身が自分たちと一緒に動けない事に焦りを感じている。
(しかし、この気配の無さは何なんだ???)
それに関しては気にならないわけではない。
シオンはとにかく触れてみようと手を伸ばした。
と、その時、彼は誰かの声を聞いた。
『聖闘士は光の闘士。不用意に闇に近づいてはいけない』
反射的に手を引っ込めようとした瞬間、部屋の中の闇がシオンに集中した。
ムウは暗黒の十二宮を見る。
(……)
周囲を照らす光の紋様が不安定な点滅を繰り返していた。
そのうち何度かは光そのものが弱くなっている。
(呪術が弱くなっているのなら分かるが、ヘラクレスの矢の効果が低下しているのだとしたら……)
聖闘士たちは呪術を視覚で認識しているのだ。
効果が切れた途端、此処にいる者たちは呪術の餌食になる。
それは火を見るより明らかだった。
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