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続々・花籠 5

日本を飛び立った飛行機は、一路ギリシャを目指す。
彼はグラード財団の方で用意してくれたチャーター機に乗って帰路についていた。
日本での商談は一応終わったが、ソロ家の当主であるジュリアンが居なくなったという問題が残されたのは痛手だった。
これの為に予定を変更して、一度ギリシャに戻らなくてはならないのだ。
一応、部下を日本に残しておいたが、何時事態が急変するか分からない。
彼は何度も手元の電話に手を置いた。

既にソロ家は名前だけの家柄ではあるが、その名前に集う者たちは未だに多い。
当主のジュリアンが全財産をなげうって世界中の子供たちを慰問しているというのも、彼の名声を高めていた。
そして世界中にはジュリアンのバックアップをする好事家もいる。

今回は一族から是非とも連れて帰るよう言われていたのに、直前になって行方不明となるので日本の警察が動き出した。
一緒に若い娘も居なくなったという事で、場合によっては駆け落ち話を作り上げようかと考える。
しかし相手がグラード財団が関わる施設の人間ということで、そのような処理は出来ない。
しかも、向こうにジュリアンを巡る一族の思惑が知られていた。
年頃の総帥を持つと、何処の一族も考える事は同じらしい。
あの財団と争う姿勢を見せては、これからのビジネスに何の得にもならない。

だから今回はグラード財団の方に恩を売る事にした。


(傀儡デ居テクレレバ……)
彼は客室乗務員の差し出すブランデーを手に取る。
それに行方不明の原因が、一族の誰かの差し金という事は有ってはならない。
とにかく向こうに戻れば、一族からの吊るし上げは確実である。
今まで何度かジュリアンには正体不明の刺客が送り込まれたらしいが、その都度ジュリアン自身の強運と一緒に居るフルート奏者の邪魔が入っていたのだ。
その若者は音楽生という話だが、本当にそうなのか怪しい。
いずれは化けの皮を剥いでおこうと、彼は思った。

もしかするとジュリアンは自発的に居なくなったと考えないことも無いが、それを日本の警察に言うわけにはいかない。


(ソウ言エバ、アノ娘ハ……)
ジュリアンが世話になっていた施設に居た娘。
彼は、ソファーの方を向く。
一人の少女がそこに横たわって眠っている、。
そして若い男が傍の椅子に座っていた。
男は東洋人のように思えるが、国籍は分からない。
動きに隙がなく、そして猛禽類のような印象を感じた。

グラード財団の方では、少女に会わせたい人が居るので案内をするのだという。
だが、秘密裏に行わないと邪魔が入って上からの命令を遂行できない。
だから協力をして欲しいと言われた。
何か奇怪しいと思いながらも、彼はそれ以上は聞かなかった。
奇妙な話であればある程、後で見返りは大きい。
彼の勘はそう告げていた。