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続々・花籠 3

暗い洞窟のような通路。
そのような場所の天井が、光の紋様で仄かに光る。
「エスメラルダさん。岩が濡れているから気をつけて」
貴鬼が差し伸べる手をエスメラルダは掴むと、慎重に岩の上に上がった。
シャカは一段高い所からこの様子を見ていたが、特に手は出さない。
「こっちだ」
彼は二人がちゃんと付いてきているのを見届けると、再び歩き出そうとする。
「ちょっと待って!」
急な場所を登り終えて呼吸を整えているエスメラルダを見て、貴鬼が乙女座の黄金聖闘士を呼び止める。
「何だ」
「エスメラルダさんを休ませて……」
しかし、その意見をエスメラルダの方が拒否した。
「私は大丈夫です」
そして遅れた分を取り戻すかのようにシャカの許へ駆け寄る。
するとシャカは彼女の方へ手を伸ばして近づくなという素振りを見せた。
「えっ?」
「私には近づかないように。影響を受けては意味がない」
シャカはそう言って、再び歩き出す。
エスメラルダと貴鬼は意味がわからず、お互いに顔を見合わせた。

「しかし、大丈夫なのか?」
ミロの主語の無い問い。
「シャカも一般の少女相手に妙なことは言い出さないだろう」
アルデバランは答えというよりも願望に近い返事をした。
「貴鬼にシャカの言葉を通訳出来るように教えておくべきでした」
ムウの発言に二人の黄金聖闘士は沈黙をする。
(そうは言うが、ムウはシャカと会話が成立したことがあるのか?)
彼らはつい言いたくなった意見を飲み込んだ。
すると彼らの会話に加わった者がいた。
「シャカはこのような環境下では非常に有効に動いてくれます」
静かに告げる女神アテナの言葉。
彼らは思わず驚いてしまった。

「貴方がた黄金聖闘士は黄道十二宮の星座の影響下に居ます。
それはある意味、神々の影響を強く受けると言っても良いでしょう。
牡羊座の示す黄金の羊が母親の願いを聞き入れた神の贈り物であり、蠍座が地母神ガイアの使わした存在であるように……」
ミロは彼女の言葉に眉を顰める。
シャイナはそんな彼の表情をちらりと横目で見た。
闘いの女神は彼らの様子を気にも止めずに言葉を続ける。
「そして乙女座を支配するのは私以外の女神。
ですが、そのままでは場合によっては冥王との闘いにおいては、真っ先に動きを封じられてしまう。
これを避けるには、私や他の神々の加護を拒絶する必要が有るのです」
女神を守る為に、その女神の守りを受けない。 繋がりを持たない。
だからこそ彼は、どのような場所でも自由に動けるのである。
それがシャカの強さだと言われ、他の聖闘士たちは言葉を失った。
「その彼がエスメラルダさんの守りに付いているのです。
多分、ポリュデウケースもシャカの動きを把握しきれない筈。
彼の庇護下にいるのなら、エスメラルダさんたち事は心配しなくても大丈夫です」
沙織はそう断言した。