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続々・花籠 1

鋭利な刃物の攻撃を受けたかのような黒き第一の宮。
その崩壊のレベルは凄まじく、宮の内部はほとんど呪術の紋様が機能してはいなかった。
だが、所々でエネルギーの流れがあるらしく、それがゆがんだ形で紋様を浮き上がらせている。
春麗は紋様を踏まないよう、魔鈴の教える通りに動いていた。

聖闘士であるシオンと魔鈴なら駆け抜けることが出来る場所。
しかし、一般人でしかも呪術媒体の箱を抱えている春麗としては慎重に動かなくてはならない。
うっかり箱を落としでもしたら大変だからである。
シオンはそんな彼女の姿を見て、絶対に旧友を殴ると決意を固めていた。
(こんな危険な事に関わらせるつもりで、春麗を拾ったわけではない)
当時、童虎に託したのは失敗かもと思ってはいたが、本当に役に立たなかったと知らされるとは思わなかった。
彼は正直言って殴るだけではなく、必殺技も使ってしまいそうな予感がした。


昔から彼は牡羊座の黄金聖衣を纏っていると、迷子や捨て子を見つける事が多かった。
同胞からも失せ人探しの才能に繋がらないかとからかわれた事がある。
だが、見つけようとすると見つからないので、実際に役に立った事は無い。
『多分、牡羊座の聖衣は海に落としてしまった少女を今でも探しているのでしょう』
女神の言葉に納得して良いのか判らないが、そう思わねばあの確率の高さは説明がつかない。
しかし、その度に実の親や養い親を探す事に時間を費やしてしまい任務に差し障る。
だから自分の私邸は、そもそも人が来るような場所ではない所を選んだ。
そして教皇の職務に就いてからは牡羊座の黄金聖衣を纏う回数も激減し、小さな迷い子などを見つける事はなかった。
だから油断していたのかもしれない。
まさか聖衣を纏っておらず、ただ五老峰にいる旧友の様子を見に行く時だというのに、瞬間移動の着地場所を見誤り、しかも小さな女の赤ん坊を見つけることになろうとは……。


「落ち着くんだ。 ここで焦って失敗したら、何もかもが無駄になる」
急いで移動しようとする春麗を魔鈴が諫める。
目の前にある光の紋様の規模が大きくて、春麗は前に進めない。
そして紋様の効果がどのような物なのかが判らないので、迂闊に強行突破出来なかった。
「……はい」
そしてしばらくして呪術の光は消える。
ようやく春麗は走り出すことが出来た。