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続・花籠 7

運命の女神たちの力を得る。
氷河にとってこの援軍は有り難かったが、キュクノスの纏う闘衣が彼の冷気に対して耐性があった。
そして過剰なまでの神の力が、逆に氷河の動きを制限させていた。
オーロラエクスキューション等の威力の高い攻撃的な技の使用では、柱に影響を与えてしまうのである。
だが、氷河は柱から離れられない。
敵は柱を壊すことに目的を変更しており、彼を近づけるわけにはいかなかったのだ。

キュクノスは相変わらず素早い動きで、氷河の攻撃をかわす。
そのうちキュクノスが柱の根元に一撃を加えることに成功。
そして其処には海水が溜まっていたのか、柱の放つ熱と反応して周囲に蒸気が現れた。
柱の光によって周辺はかなり明るいが、実際は夜である。
蒸気が視野を狭め始めた。
(ならば……)
氷河は自らの小宇宙を最大限に輝かせて、周囲の空気を凍らせる。
霧は氷の結晶となり空中でキラキラと輝き始めた。
キュクノスは初めて見る光景に一瞬動きが鈍ったが、氷河の姿を発見すると再び攻撃を仕掛ける。
速さでは負けないので、女神の聖闘士が何をしようとも自分に向こうの攻撃が当たることは無い。
だが、彼は次の瞬間、想像を絶するモノを見てしまう。

周囲から何本も天に向かって伸びる光の柱が出現したのである。

彼は自分がいつの間にか柱の中に入り込んでしまったのかと錯覚を起こす。
この状態に彼の動きは止まってしまい、氷河はその隙を逃すことなく一撃を与えた。
「その聖衣に耐性があったのが仇になったな」
そして勝負の終わりと共に彼らの周囲に溢れていた氷の結晶が少なくなってゆく。
キュクノスはようやく自分の周囲を見回した。
いつの間にか色々な所に出来ていた氷の柱。
中には呪術の書かれている場所にそびえているモノもあった。
それらが薄暗い空間で輝いているのがキュクノスの目に映る。
光源はもちろん呪術で作られた光の柱である事は、一目で判った。

キュクノスは自分が不死身であるがゆえに、本当の意味で戦闘経験が浅かった事を思い知る。
そう思うと、負けたというのに気分は清々しかった。
『これがアテナの聖闘士か……』
彼はそう呟くと、そのまま岩のような状態になり、黒い白鳥座の聖衣と共に崩れて消えていった。

氷河は女神の言葉に従って、光の柱に近づく。
呪術的な事は女神たちが行うので、とにかく氷河の小宇宙の力を貸して欲しいと言う。
だが、彼が柱に近づいた途端、氷河は体中の力が抜けたかのように膝をついてしまう。
三柱の女神たちの力を一人で背負っている為、身体にかかる負担が限界にきたのである。
(まだ、大丈夫だ……)
多分、今自分が纏っている聖衣が女神アテナの血で変貌を遂げた神聖衣でなければ、この瞬間にも自分の身体と聖衣はバラバラになっていたかもしれない。
その時、再び大地から海水が吹き出した。
そして重々しい気配が辺りを包み込む。
氷河は女神たちから巨人アグリオスが出現すると言われた。
だが、このまま連戦するのは彼にとって非常に危険だった。

憎キ、運命ノ女神ドモ……。

耳に届いた巨人の怒り。
再び戦う為に氷河が立ち上がろうとした時、
「無理をするな」
との声が、光と闇の狭間から聞こえてきた。
そして確認をせずとも、彼はそれが誰なのか知っていた。

「アイザック……」
「今のお前では無理だ 」
そこに立っていたのは、クラーケンの海将軍。
彼の登場に、何故か運命の女神たちが沈黙した。