呪術の光が不安定になった神殿。
何らかの負荷がかかっているのか、壁に突き刺さっている銀色の矢が音を立てて火花を散らす。
だが、ポリュデウケースは動揺した素振りを見せない。
むしろアフロディーテの方が、何かに気がついて眉を顰めていた。
(拙い奴が関わってきたな……)
そんな彼の様子を無視して、デスマスクは気配の持ち主について尋ねる。
「今度は一体誰だ?」
何処か聞くのも面倒と言わんばかりの口調。
アフロディーテはしばらく考えた後、静かに答える。
「この気配は……、トロイアの猛将キュクノス(白鳥)だ」
その人物が何故そう呼ばれているのかと言うと、髪も肌もとにかく色素が薄かったからだという。
「だが奴は敵を倒すという事を楽しむあまり、味方を犠牲にしても構わないと考えている節があった。
最後に自分と数人の味方が生きていれば、自ら神の子であり不死身である事を他の人間に証明できるからな」
その為、彼がギリシャ側の英雄アキレウスと対峙した時、味方であった筈のトロイアの兵士たちはキュクノスが倒されても仇を討とうという行動は起こさなかった。
「それは嫌な奴だな」
「……とにかく奴が不死身とも言える肉体の持ち主だった為、アキレウスもまっとうな倒し方をしなかったくらいだ。
奴と対戦する者は苦戦どころか地獄を見る事になるだろう……」
アフロディーテは当時の戦いについては凄惨を極めたとだけ言い、それっきり口を閉ざした。
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