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続・花籠 2

暗い場所で仄かに見える数々の小さな光。
絵梨衣はそれが花である事に気付くのに時間がかかった。
「ここは……?」
首を動かして辺りの様子を見る。
だが、起き上がろうとすると体中が痺れて動くことが出来ない。
天を見れば無数の星たちが光り輝いている。
(綺麗……)
怖いくらいに美しい夜空。
何処からか漂う花の香りが、彼女の身体の痛みを少しだけ和らげてくれた。

彼女は手首を動かして自分が纏っている黒い布を掴み、大きく深呼吸をする。
この時、彼女は気付く。
自分が身につけていた腕輪が無くなっていたのである。
(もしかして、あの時!)
全身を貫くような痛みの中で見た腕輪の崩壊。
だからといって自分の傍に女神の気配はない。
彼女は急に心細くなって、思わず涙を零してしまう。
その時、何処からか鈴のような音色が聞こえてきた。

(何の音?)
その音は徐々にはっきりと聞こえてくる。
「誰か……いますか……?」
起き上がることが出来ない今、声を出すことでしか自分の存在を主張できない。
それでも今の絵梨衣には声を出すのも辛い事。
すると、鳥の羽ばたく音が近くで聞こえ、一羽の白鳥が絵梨衣の顔を覗き込んでいた。
「白鳥さん……?」
柔らかい光を放つ白鳥は、絵梨衣の身体に身を寄せる。
自分が一人ではないことに絵梨衣もまた安堵の笑みを浮かべた。
だが、この緩やかな時間は、瞬く間に終焉を迎える。

『何度言えば判るんだ!』
聞いた事のある男性の声。しかも怒っている。
そしてその後に聞こえたのは、激しく鳴り響く鈴のような音色。
絵梨衣は何事かとビックリしてしまう。
『とにかくお前たちが関わる必要はない』
そう言って草むらに横になっている絵梨衣の前に現れたのは、銀色の髪をもつ青年。
「あっ!」
顔だけは知っている青年の登場に、彼女は呆然としてしまった。

柱から現れた人物は、問答無用で氷河を攻撃する。
その拳の威力は凄まじく、拳圧で崖の壁に幾つもの大穴があく。
そしてその後には砂塵が舞い、相手の姿は砂の煙幕によって掻き消された。
氷河は巧みに相手の攻撃を避けるが……。

「何っ!」
突如、相手は氷河の目の前で拳を大地に打ちつける。
そして大地には亀裂が発生。
其処から噴水のように吹き出した海水が、光の柱に重なる。
相手は薄く笑いながらも氷河の動きに対して警戒し、柱を凍らせ光を封じ込めたのだ。
其れだけでも力の証明が出来そうだが、相手はもっと理解しがたい行動を起す。
柱の根元に自分の一撃を与えたのである。
亀裂が柱に長くまっすぐに入る。
『しばらくすれば、このヒビは柱を壊す。
そうなれば力ある光は、この島中に拡散する。
暴走した力は……、この島を破壊し尽くすだろう』

謎の青年はこの状況を楽しんでいた。