鳥の影が見えたという柱。
その柱に近づく為に、氷河は崖になっている土地を慎重に下りていた。
時々、地面から呪術の光が漏れることがあったが、彼はそれを器用に避ける。
(こんな所に何が有るというのだ?)
そんなことを考えながら長い距離を下り続け、彼はようやく光の柱の根元へと辿り着く。
だが柱に触れようとしても、それは幻のように氷河の手をすり抜けてしまう。
そして光が強いと感じる割りには、直視しても目に痛くはない。
何もかもがあやふやで、柱自体が実は存在してはいないのではと考えてしまいそうになる。
だが、一瞬だけ光の柱の中で黒い鳥の影が見えた時、彼はこの柱が幻ではないと確信した。
「……?」
小宇宙を通じて聞こえてきた仲間の声。
「瞬の方は柱に触れるのだな」
相手から伝えられる情報を聞き、氷河はもうしばらく柱の様子を見る事にした。
(……)
光は確かに柱の中を水のように動き、時々鳥の影を見せている。
しかし、周囲に音は無く、逆に耳が痛くなるかのような静寂に包まれていた。
この状態に氷河は、ブルーグラードで見た氷の柱を思い出す。
氷の中で眠る恋人の姿に、彼は一瞬だけ氷の海で眠る母の姿を重ねてしまった。
あの時の光景は、思い出すだけでも心が凍りつきそうになる。
「絵梨衣は無事だ」
彼は自分にそう言い聞かせる。
その時、突如として響いた轟音により、彼の目の前の柱が音をたてて上下に揺れ始めた。
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