INDEX

続・花籠 1

鳥の影が見えたという柱。
その柱に近づく為に、氷河は崖になっている土地を慎重に下りていた。
時々、地面から呪術の光が漏れることがあったが、彼はそれを器用に避ける。
(こんな所に何が有るというのだ?)
そんなことを考えながら長い距離を下り続け、彼はようやく光の柱の根元へと辿り着く。

だが柱に触れようとしても、それは幻のように氷河の手をすり抜けてしまう。
そして光が強いと感じる割りには、直視しても目に痛くはない。
何もかもがあやふやで、柱自体が実は存在してはいないのではと考えてしまいそうになる。
だが、一瞬だけ光の柱の中で黒い鳥の影が見えた時、彼はこの柱が幻ではないと確信した。
「……?」
小宇宙を通じて聞こえてきた仲間の声。
「瞬の方は柱に触れるのだな」
相手から伝えられる情報を聞き、氷河はもうしばらく柱の様子を見る事にした。
(……)
光は確かに柱の中を水のように動き、時々鳥の影を見せている。
しかし、周囲に音は無く、逆に耳が痛くなるかのような静寂に包まれていた。
この状態に氷河は、ブルーグラードで見た氷の柱を思い出す。
氷の中で眠る恋人の姿に、彼は一瞬だけ氷の海で眠る母の姿を重ねてしまった。
あの時の光景は、思い出すだけでも心が凍りつきそうになる。
「絵梨衣は無事だ」
彼は自分にそう言い聞かせる。
その時、突如として響いた轟音により、彼の目の前の柱が音をたてて上下に揺れ始めた。


そして黒い十二宮の閉ざされた空間では、凍りついた水晶の前でカミュが外の様子を探ろうと意識を集中していた。
「……」
その時、背後に異様な何かを感じて、彼はその方向に振り返る。
(何かが居る……)
敵意は感じられない。
ただ、ひどく曖昧な気配なので敵なのか味方なのか、それとも偶発的な接触なのか見当がつかない。
しかし、カミュの足元にいた白鳥には、それが何であるのかが分かったらしい。
しきりに羽ばたきをしていた。
「お前の知り合いか?」
言葉が交わせるわけではないのだが、彼は一応尋ねてみる。
すると白鳥は首を大きく上下に動かすと、その気配の方へ飛んで行ったのである。
そして闇に溶け込むように、白鳥も異様な気配もカミュの前から消えたのだった。
(もしもキグナスに関わる者ならば……)
彼はその奇妙な気配の主が、いずれ氷河の前に現れるような気がした。
はっきり言って確信は無い。
だが、それでも謎の存在が強力な味方であって欲しいとも思った。


先程とはうって変わって、強弱を繰り返す光の柱。
氷河は慎重に近づく。
「この中か……」
そう言って柱に触れようとした瞬間、彼は殺気を感じて直ぐさま柱から離れた。
少し離れたところで崖の壁が破壊される。

柱から現れたのは、白鳥座の神聖衣にそっくりな闘衣を纏う人物。
彼は闘衣を身につけていない氷河を見て、薄く笑った。