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花籠 6

目の前に現れた金色の光。
その正体に貴鬼は驚きの声を上げ、エスメラルダは声が出せなかった。

一方、闇の十二宮の前では、シオンが春麗と魔鈴を連れて白羊宮に該当する建物に向かおうとしていた。
沙織たちが彼らを見送ろうとしていたその瞬間、
『わ───っ!』
その不意に聞こえた絶叫に、黄金聖闘士たちは不覚にも驚いてしまう。
「この声は……、貴鬼???」
ムウは突如として聞こえてきた弟子の声に意識を集中するが、やはり何か霧がかかっているかのように気配を感じることが出来ない。
そんな黄金聖闘士の様子に白銀聖闘士たちは周囲を見回す。
「今、何か聞こえたか?」
シャイナはアルゲティに小声で尋ねたが、彼は首を横に振った。
だが、次に聞こえてきた声にシオンと聖闘士達は驚きの声を上げる。

『ムウ。弟子の教育が甘いようだな』

それは聞こえてくる事を予測していなかった声だった。
「シャカ!!!!」
その名に沙織は、ほっとした様子で胸をなでおろした。

貴鬼の方はというと、突如現れた黄金聖闘士という存在に思考が半分停止してしまった。
「シャカさん……」
「“さん”ではない。様を付けたまえ」
いきなりの説教に彼は首をすくめる。
正体が判ったのは良いが、この乙女座の黄金聖闘士はどういうわけだか私服だったのだ。
この場にそぐわない姿に、貴鬼は何から尋ねて良いのか判らない。
ただ、不安げな様子のエスメラルダに、彼が黄金聖闘士の一人であると言うのが精一杯だった。

『ムウ。おまけの教育だからといって、手を抜きすぎではないか』
はっきり聞こえる声に、牡羊座の黄金聖闘士は驚いたり不快感を表したりと忙しい。
その様子に、沙織は二人の寒い会話を中断させた。
「ムウ。シャカにそちらの様子を報告させなさい」
女神の命令ゆえ、ムウは冷静さを取り戻すとシャカに様子を尋ねる。

『どうやら、お前の弟子は華奢な娘を危険から脱出させる為に瞬間移動を行って、見当違いの所へやって来たらしい。
今、我々は古い遺跡の中だ。
あの黒い十二宮とは、様子が違うからな』

貴鬼とエスメラルダがシャカと一緒に居るという事に、全員が一応安堵した。
ただ、シャカという人間を知っている者たちは、それでも一抹の不安を感じてはいるが……。
一緒に居たはずの一輝については、彼なら何とか危機を脱出するだろうという見解で無理やり決着をつける。
聖闘士として数々の歴戦を闘い抜いた男である。
そう簡単には倒されないという確信が沙織にはあったからだ。
「それでは、ムウ。シャカに私の言葉を伝えなさい。
エスメラルダさんを“一番安全な所”へ連れて行くように」
沙織の言葉を再び彼は乙女座の黄金聖闘士に伝える。
シャカの方でも、ムウからの伝言に了解の意を示した。

(?)
何故、女神と乙女座の黄金聖闘士は直接会話をしないのか?
聖闘士たちはこの様子の不自然さを、なんとなく疑問に思った。
だが、シャカ自身が沙織と小宇宙で会話を行わないのだから仕方がない。
「……」
そして今はその理由を詮索する場合ではない。
とにかく二人の無事を確認できたという事で、シオンと春麗は少しだけ表情を和らげて白羊宮の方へ向かって行く。
魔鈴は同胞の白銀聖闘士たちとは言葉を交わさずに、二人の後を追う。
そんな様子に沙織は彼らの後ろ姿を見送りながら、持っていた白い杖をきつく握った。
『春麗さんに大地の女神たちの加護が有りますように……』
そして彼女は、今は何処に居るのか判らない自分の師に闘士たちの無事を願わずにはいられなかった。