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花籠 4

このままでは……。

敵は一輝よりも自分たちの方を先に攻撃しそうな様子が見えた。
貴鬼は一か八か、エスメラルダをこの場から引き離す決意をする。
ただ、瞬間移動した先が何処になるのかは自分でも選ぶことは出来ない。
此処は対聖闘士用の罠が仕掛けられている場所なのだから……。

敵の闘気が膨れ上がる。
『これで終わりだ』
ギルティーの言葉に、一輝はそれを邪魔するべく拳を向ける。
だが、呪術によってほとんどダメージを受けていないギルティーの方が動きが早かった。
貴鬼はエスメラルダの腕を掴むと、強引にその場から瞬間移動を試みる。
次の出現場所が、再び此処ではないことを祈りながら。

ギルティーの放った一撃は、床を抉り土煙をあげる。
一輝はその場に二人が居ないことを悟ると、勝負を終わらせるべく勝負に出た。
「鳳翼天翔!」
彼の技が放つ風が、周囲にあった粉塵を巻き上げ敵を襲う。
だが、ギルティーの身体を覆う呪術の光が、それを無効にしていた。
『何度やろうとも無駄なことだ』
彼が余裕の表情で元弟子を嘲笑った瞬間、大地が振動を起こし一輝の背後から突風が吹き抜ける。
『何っ!』
それと同時に周囲で光り輝いていた紋様が点滅を始める。
『結界が……』
島の囚われ人は、驚きの声を上げた。

そしてその隙を一輝は見逃さなかった。

若き不死鳥の拳が闇色の闘衣を打ち砕き、ギルティーに致命傷を与えたのである。
「……」
一輝の脳裏にエスメラルダを失ったと思った時の光景が蘇る。
あの時は絶望の中で師匠だった男を葬った。
今は絶対に失いたくない者を守るために倒す。
迷いは無い。

するとギルティーが一輝の腕を掴んだ。
しかし、その腕に力は感じられない。
自分の身体を支えるために掴んでいるといったような状態だった。
『……を守ったか……』
「……」
聞いたことの無い柔らかな口調。
一輝は黙った。
『これで……二度目だ』
満足げな眼差しは、一輝の返事を待っているかのようでもあった。
「……俺の前に立ちはだかるのなら、俺は何度でもお前を倒す」
するとギルティーは口の端を歪めて、薄く笑う。
『それは面白い……』
「…………」
『ならば他の者に倒される事は許さない。
貴様は……』
ギルティーがそう言いかけた時、床の紋様がスパークを起こす。
そして彼の体は石化が始まった。
一輝は腕に痺れを感じたが、拳を引かずにいた。
それをすれば、目の前の男は簡単に床に倒れるのが分かってはいたのだが……。
『…………』
師匠だった男は口を動かして何かを言っているようだったが、その声は一輝の耳に届かない。
ただ、ゆっくりと砂が崩れるかのように一輝にとっての悪夢が消えようとしていた。
そして最後、男が静かに闇へと還る。
一輝は何も無くなった自分の腕を見つめた。
「……あの二人を見つけないと……」
彼は振り返らずに、その場から立ち去った。


静かでありながら何処か緊張をはらんだ海底では、アイザックが海の様子を見ていた。
「ここも変だな……」
彼はそう言って岩の切れ目から立ち上る黒い煙を凍らせる。
空間そのものを凍結させる事は難しいが、海底から漏れる瘴気を海に拡散させないようにすることは出来る。
それは根本的な解決にはならないが、やらないよりはずっと良かった。
他の海闘士たちが瘴気にやられては、何にもならないからだ。
そして様子を見に来た部下の海闘士に、亀裂のレベルについて伝え後始末を命じる。
(……)
その時、彼は近くに何かが居る気配を感じた。
「お前たちは此処に居ろ」
そう言ってアイザックはデスクィーン島の方に向かって駈け出した。