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花籠 3

冥界では冥闘士たちが突如出現した4本の黒い柱に警戒を強めていた。
既にその柱から次々と巨大な影が地上に向かって移動している。
しかし、彼らは破壊することが出来ずにいた。
何故なら柱に近づくと、彼らは力を奪われたかのように立てなくなってしまうのである。

そしてタルタロスの門の前で部下の報告を聞いたアイアコスは、全ての冥闘士たちに柱にむやみに近づくことを禁じた。
門は修復技術に優れた冥闘士たちによって仮復旧しつつあったが、元々神々の力を維持していた冥界の要所である。
一介の闘士でしかない彼らに出来る事には限界がある。
(大まかに修復が出来たら、こいつらを柱の方へ回した方が良いな)
地母神ガイアが忌まわしい柱を作ったことは、アイアコスにも容易に想像がついた。
呪術では向こうが一枚も二枚も上手である。
消耗戦で冥闘士達を犠牲にするわけにはいかない。
「聖闘士と海闘士たちが何処まで戦えるかだ……」

その時、ある方向から巨大な小宇宙が現れた事に彼らは気付いた。

「おっ?
これは珍しい」
アケローン河にて船の上で周囲の様子を伺っていたカロンは、大きく揺れる船体を巧みなオール捌きで難なく操る。
悠々と流れるアケローン河がこのように荒れるのは、冥界そのものを揺るがす大事件が起こっているという事でもある。
「これは由々しき事!」
彼は雄々しく拳を固めたが、ここで当然あるべきモノが無い。
それは船に同乗している仲間の相槌。
彼は其処に居るべき仲間の方を見てみると……。
「……下手くそ!」
フログの冥闘士であるゼーロスが船酔いの為、顔色を悪くしていた。
この暴言にカロンは、
(フログなら水に落ちても泳げる筈)
と、何か不穏な事を脳裏にチラつかせていた。

アルラウネのクィーンは、目の前に在る黒い柱から感じた巨大な小宇宙に驚く。
それは冷たく重かった。
一緒に居た他の仲間たちも、唖然としている。
(このような偉大なる小宇宙は……)
気付いてはいるのだが、言葉で表すのは恐れ多い。
そして黒い柱は音を立てながらその姿がぼやけ始めた。
呪術が何かの拍子に、その力が維持できなくなったのだとクィーンは判断をする。
そして偉大なる小宇宙が何か暖かな気配を示し始めた途端、強烈な光が黒い柱を引き裂いたのだった。

轟音と共に崩壊する柱。
その中に冥闘士たちは神の怒りに触れた巨人の姿を見たような気がした。