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花籠 2

何故、この存在を憎み、執着するのだろうか?

体中に張り巡らされた光の紋様はペイリトオスを守り、カノンの技をほぼ無効にしていた。
既に彼らの戦っている場所は島の大地なのか、何か別なモノなのか判らなくなっている。
そしてカノンは急に周囲の空気が重くなったことに気付く。
(早めに決着をつけなくては!)
足元から感じる巨大な生き物の気配。
それと似たような物は少し前に海底神殿にて体験をしている。
(巨人族か!)
そうなると、ここでギャラクシアンエクスプロージョン等を使うことは出来ない。
空間の不安定な島が連鎖的に崩壊しては、自分が此処に来た意味が無くなるからだ。
「……」
カノンはペイリトオスの身体に埋め込まれている小さな石を掴もうとした。

この者が生まれながらの英雄である事を知っているからなのか?
自分が勝てない事を、既に知っているからなのか?
ただ、このまま人として滅びるのならば、ディオスクーロイと戦って逝きたい。
自らが最高の力で戦うのならば、その先に何が待っていようとも後悔はしない……。


呪術で作られたモノに近づくのは、海将軍とは言え生身の人間が無事で済む筈が無い。
ペイリトオスは愚かとしか言いようの無い行動に出た青年を嘲笑う。
その時、轟音と振動が闘いの地を襲った。
ペイリトオスの身体は呪術の効力が不安定になったのか、先程までの強烈な反撃が来ない。
確かに彼の呪術はカノンの腕を攻撃し、シードラゴンの鱗衣にヒビを走らせてはいる。
だが、過去の亡霊は事態の変化に、初めて狼狽の色を見せた。
カノンは苦痛に顔を歪めながらも、尚もその腕をペイリトオスの中に入れる。
目の前の敵が自分を抹殺するべく、右手で自分の頭を掴む。
その瞬間、カノンの目の前に何かが見えた。


動かなくなった少女を抱きしめて呆然としている青年。
見知らぬ筈の光景。


だが、その青年を自分は知っているような気がした。
「─── 」
思わず口にした言葉に、過去の亡霊の表情が変わった。
そして、それが切っ掛けであるかの様に、今度はペイリトオスの身体に光が溢れる。
シードラゴンの鱗衣が蒼い光を放ち始めたのである。
自らの小宇宙を輝かせてカノンは呪術に対抗しているのだ。
「貴様も、これまでだ」
そう言って海闘士のたちを統括する筆頭将軍は、ペイリトオスの身体の中にあった結晶を掴む。

『ディオスクーロイ!』


カノンが掌の中にある其れを砕いた瞬間、強敵はそう叫んで霧散。
黒い靄みたいな物は大地に吸い込まれていった。
その時の敵は満足げな表情をしていた様に見えたのだが、彼はそれを気の所為だと思った。

「シードラゴン様!」
今まで二人の闘いに手が出せなかったテティスが、カノンに近づく。
「俺は平気だ……」
無事ではないシードラゴンの鱗衣を見ると何処まで信じていいのか迷う筆頭将軍の言葉だが、テティスはそれ以上何も言えなかった。
それに足元から感じる巨大な気配は、ますます強まってゆく。
「……」
先程まで夜の空間に光を与えてくれた呪術の紋様は、薄くなったり点滅したりと不安定さを示し始めていた。