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花籠 1

点滅を繰り返す紋様。
シオンは春麗の方を向いた。
「春麗。其方の養父を助けに行くぞ」
その言葉に彼女は頷く。
しかし、これに驚いたのは沙織と牡牛座・蠍座の黄金聖闘士だった。
ムウと三人の白銀聖闘士は事の成り行きを見守っている。
「シオン。貴方が動くのですか?」
「はい。強い光は目立ちすぎて春麗を危険に晒します」
彼の返事に沙織は納得してしまう。
確かに敵は対聖闘士用の仕掛けを幾つも用意しているのである。
聖闘士を同行させたら、春麗に対しても罠を作動させる危険が考えられた。
ただ、シオンもムウに代を譲っただけで黄金聖闘士には違いないのだから、危険度は変わらないといえば変わらない。
しかし、シオンの絶対的な強みは長い間に積み重ねられた聖闘士としての経験である。
少なくとも他の聖闘士よりも役に立つかもしれない。
今の彼に肉体の不安要因は無いのだから……。
沙織もそれが分かっているので、そうですかと答える。
「シオン。春麗さんを頼みましたよ」
女神エリスが春麗を切り札とした以上、沙織はその計画を絶対に遂行させなくてはならない。
それ以外の方法を選ぶには、時間が無さ過ぎた。
そして彼女は一人の白銀聖闘士を呼ぶ。
「魔鈴。途中までシオンと行動を共にしなさい」
女神の言葉に、今度はシオンの方が驚いた。

聖域では警護に付いている白銀・青銅聖闘士や雑兵たちが定期的にオルフェとダイダロスの許へ報告に来ていた。
そしてその情報は、青銅聖闘士である子獅子座の蛮が神官と一緒に記録していく。
「特に妙な現象は発生していなさそうだな」
オルフェが竪琴を小脇に抱えてテーブルの上に広げられた聖域の地図を覗き込む。
そこにはダイダロスの字で色々な事が書き込まれていた。
聖域の知恵者は、古書の中で示されている敵の進入ルートのデーターを解析していたのだ。
その情報は天候や星の位置、推測される時間まで書き込まれている。
彼は過去に読んでいた資料をほぼ正確に覚えていたのである。
だが、思い込みで解析を進める訳にはいかないので、数名の神官がこの部屋と書庫の間を往復していた。

「天上界が聖域に来るのは、やはりデスクィーン島の方が解決した後だろうか?」
オルフェの問いかけにダイダロスは頷く。
「そうだろうな。 言葉は悪いが、今我々は大地の女神たちの生命を盾にしているようなモノだ。
こんな時に聖域を戦場にすれば、女神たちは無事では済まない」
だが、それが正解である保証は無い。
少数精鋭の侵入者が派兵される事もあり得るからだ。
其処へ聖闘士が駆け込んでくる。
狼座の那智である。
部屋に緊張が走った。

「どうした!」
すると彼は一枚のメモをオルフェに渡す。
「……」
それを見たオルフェは蛮の方を向く。
「記録をしてくれ。
ミホと言う少女はグラード財団幹部以外に、闘士らしき人物と一緒だそうだ」
そして彼女を奪還しようとした聖域側の人間が、その闘士の攻撃に遭い病院に運ばれたという。
女神から頼まれた追跡劇は、意外な展開を示す。
そしてメモにはその後の事も書かれていた。
彼らは飛行機を乗り換えて、今度はとある富豪が用意したチャーター機に乗っているという。
その富豪というのがソロ家と縁戚関係にある人物だと記されていた。
一人の少女をどんな理由で納得させたのかは判らないが、日本から連れ出す事に成功したのである。
何かの計画が着々と進められていると考えて良い。
「こうなるといくら手練だからと言われても、一般人を関わらせるのは犠牲を増やすばかりだ」
一応その飛行機の目的地がギリシャであると書いていあるので、後は飛行機の到着時刻を調べれば良い。
問題は飛行機が何らかの理由で別の空港に着陸した場合である。
現時点ではデスクィーン島でのギガントマキアが、世界中に何らかの影響を与える可能性は高い。
そしてそれは天候にも関わることは、容易に推測出来た。
「……とにかく飛行機の到着時刻を調べよう」
ダイダロスは一人の神官に、聖域の外へ行くよう依頼した。
彼は急いで那智と共に部屋を出て行く。

蛮は那智の姿を見送る。
実は彼は、オルフェからこの部屋から出ない様にと厳命されているのである。
その理由は神官たちを避難させるための人員と言われたが、どうも違う様な気がした。