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「これは拙いですね」 ミーノスは目の前で巨人族と戦っている王の様子に眉を顰めた。 致し方ないと分かってはいるが、王の存在により空間が異常なまでの緊張を持ち始め、戦闘場所にて冥界の気配が濃厚になってきたのである。 「ミーノス様……」 ゴードンは目の前に居る偉大なる王の様子に戸惑ってしまう。 とにかく彼らは近づきたくても近づけない。 冥王の小宇宙が何者も関わることを許さないという意志に満ちていたからである。 |
気がつくと彼は、再びデスクィーン島の大地に立っていた。 『煩い奴だ……』 自分のすぐ傍で聞こえたハーデスの声に、瞬は驚いてその姿を探してしまう。 だが、居るわけがない。 『よもや同調出来るとは思わなかった』 冥王の声は何処か困惑の響きがあった。 「同調……?」 『まぁいい。ならばお前にも協力してもらおう。 あの巨人を地上に出すわけにはいかない』 かなり一方的な言い方なのだが、瞬は怒るよりも目の前で自分を見ている巨人の異様さに息を呑む。 (あれが巨人……?) 若き青銅聖闘士には、相手は人というには何か別の生き物との融合体のようにも思えた。 『地母神ガイアが古い呪術でも使ったのだろう。 とにかくあれをタルタロスに戻すには、お前の小宇宙の輝きが必要だ。 意識を集中させろ』 ハーデスの言葉に瞬はネビュラチェーンを強く握る。 「……冥王」 既に躊躇う事も様子を見る事も呑気に出来る状態ではなかった。 ただ、覚悟するしかない。 『お前が駄目ならば、余はお前の大事な獅子を次の協力者にする。 そうしなければ、大事な物を守れない』 脅迫染みた言葉に瞬は驚く。 (えっ……。獅子???) 一瞬誰の事かと思ったが、直ぐに思いつくのは自分の兄の事だった。 確かに先の聖戦で兄は一時、獅子座の黄金聖衣を纏っていた。 (そんなの駄目だ!) それに自分にはやらなくてはならない事がある。 瞬は迷いを振り切って、意識を集中した。 『暗闇に輝く者たちよ。我が力となれ』 ハーデスの詠唱と共に、アンドロメダ座の聖衣が所有するネビュラチェーンは光と闇の粒子が絡み合う状態となる。 そして……。 「星の鎖よ。僕の力となって、その威力を示せ!」 瞬の叫びと共に放たれた力は、一直線に異形の巨人を目指す。 わずかの静寂の後、島中に得体の知れない轟音と生暖かい突風が吹いた。 |
この事態によって、今まで何事もなく輝いていた呪術の文様の幾つかが点滅を始める。 |