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続・結界 7

自分の力を何処まで開放すれば巨人族が倒せるのか。
そしてその影響が姉神や冥妃にまで及ぶ事は無いのか?
もしかすると自分の行動が既に読まれており、地母神ガイアが何か策略を巡らしているのではなかろうか。

その躊躇いがあったから、神代のギガントマキアではヘルメスに隠れ兜を渡して自分は参加しなかった。

しかし、今はそんな事を言ってはいられない。
『人の協力を得なければ巨人族は倒せない……』
ハーデスは、前回のギガントマキアにてオリュンポス神族に告げられた予言を口にした。


(兄弟だからこそ……)
そう言ったのはパリスなのか自分なのか。
瞬は表情を硬くしながら俯いた。
聖戦のおり、自分は冥王と刺し違えるつもりだった。
そして万が一失敗した時は、その役目を兄に託す気でいた。
他の誰でもなく実の兄に……。
(僕は……)
僕は兄さんにとって……。
そう呟きそうになった時、瞬は腕に感じた激痛に呻く。
それにより、彼は我に返る。
今、自分は戦場に居るのである。 成すべき事は悩む事ではない。
(早く冥王から体の自由を取り戻さないと!)
再び脇腹に痛みを感じた時、瞬の居た空間がいきなり真っ暗になった。


アフロディーテは暗闇の中で小さな光が消えた事に気付く。
(……)
だが、何も言わずに消えた方向の暗闇を見つめていた。


冥王ハーデスは体に受けた痛みに呼吸を荒くする。
依代で戦うと、人間としての制限を受けてしまう。
かといって神の体は、先の聖戦で失った。
それに神の体では、多分巨人族を倒すことは出来ない。
どうしても地母神ガイアの呪縛から逃れられないからである。

しかし、人間は違う。
彼らは変わり続ける事、次の代に命を繋ぐ事で在り続けた。
そして、その生命の輝きは強く美しい。
姉神や冥妃は、あの輝きが愛おしいと言っていた。
しかし、それは自分には無い光。
(だが、例えそれが余の宿命だとしても……)
彼は自分を狙う巨人を睨み付ける。
その姿は、まるで光を恋い慕う己に見えて不快だった。


黒い空間に放り出された瞬は、どうしたらハーデスから自分の肉体を奪還できるのか悩んでしまう。
聖戦の時は少なくとも自分の意識を侮り、簡単に潰そうとしていた。
だが、今はあの時と違いハーデスは自分との関わりを一切断ってしまっている。
(何とかしないと!)
女神エリスの依代である少女の時ように、肉体から弾き出されているのではないか。
しかし、自分が痛みを感じているという事は、そうではないとも思える。
(冗談じゃない。僕は立ち止まってはいられないんだ)
同じように戦っている兄や仲間の姿が脳裏を過る。
そして、瞬は不意に泣いている姉弟子の姿を思い出す。

死にに行く様なものだと、聖域へ向かうことを止めに来てくれた彼女。
(……)
でも、その彼女はもう何処にも居ない。太古の女神の生贄に捧げたと言われた。
(それが運命だと言われたって、諦められるわけがないだろ!)
否定的な感情を振り払うかの如く叫んだ時、彼の周辺の様子が一変した。