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続・結界 6

「なるほど。面白い事をやってくれる」
カノンは身に受けた衝撃から立ち上がる。
最初に放ったゴールデントライアングルは、相手の体に張り巡らされた光の紋様に阻止された。
敵のまとう闘衣に付いている結晶の様な物が、まるで鼓動を示すかのように色を変える。
そして二人の間に幾つもの火花が散った。
ペイリトオスは呪術によって体を作り上げていたのである。
そして彼らが戦っている場所には、同じように呪術が施されていた。
『島を守る限り、お前は勝てない』
そう言って高笑いをする敵にカノンは薄く笑う。
「それは貴様を倒してから、ゆっくりとやるつもりだ」
ポリュデウケースと対決するためには、ここで時間を取られるわけにはいかない。
彼は思い切って勝負に出る事にした。

暗い穴の中からヒッポリュトスは、宿敵の気配を感じて咆哮をあげる。
黒き王は巨人族の繰り出す爪の攻撃を素早く躱した。
だが、ハーデスの攻撃は敵に対して効果がなかった。
『やはり力を開放せねばならないのか……』
彼は悔しそうに唇を噛んだ。


弟のゼウスは天。ポセイドンは海。
そして自分は冥府を統括していた。
元々、絶対的とも言うべき死の力を持っていた為、地上にあまり居続けられない。
大切な姉神たちの力をも呑みこみ、オリュンポス神族を滅ぼす恐れがあったからだ。
だから冥府からほとんど出ずにいた。
そしてその力の性質上、地母神ガイアとは対決を避けていた。
ガイアを刺激して向こうが自分を利用しようと動かれたくはない。
原初の女神を追い詰めるのは危険すぎるからである。
だが、姉神のデメテルが娘を産んだ時、自分に助けを求めた。
あの時の彼女の悲鳴に似た願いを今でも覚えている。

『ハーデス。娘を助けて!』

天に女神アテナ。海に女神パラス。
次世代を創造する猛き女神たちの存在が地母神ガイアを警戒させた。
そして姉神の産んだペルセポネは、地母神ガイアと同じ性質の力を得た女神だったのだ。
このままでは娘が殺される。
そう怯えている姉神に一つの取引を持ちかける。
ペルセポネが成長したら、直ちに自分の許へ寄越す事。
ただし、この話はガイアと既に問題の女神を抱えている弟たちに悟られてはならない。
そう言った時、彼女は自分の事をじっと見つめていた。
非常に危険な賭ではあるが、姉神の腕の中に居る小さな女神の為に己の力を最大限に封じ込めてみせる。
そう彼女の前で誓った。

だが、その想いが今は自分を縛りつける。