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デスクィーン島周辺の海では、今まで揺らめいていた黒いモノを中心に周辺の海水が流れ始めた。 警戒を強めていた海将軍以下の海闘士たちがその海流に翻弄される。 (まさか巨人族が出てくるのか!) ソレントたちは必死に体勢を整える。 そして彼は異様な気配を放つモノの中から、何かが自分たちを見ている目に気付いた。 その大きさから人間では無いことがありありと判る。 (出てくるのか!) セイレーンの海将軍がフルートを強く握った時、何か偉大かつ重く冷たい小宇宙を感じた。 |
目の前でパリスは闘衣と共に光となった。 瞬は呆然と自分の手を見つめる。 『影や幻など、余の前には無意味だ』 突然聞こえてきたハーデスの声。 (冥王!) 『アンドロメダ。貴様の力を暫し使うぞ』 その声と共に、彼は自分の髪が黒くなっていく事を知る。 自分の体が冥府の王に乗っ取られつつあるのだ。 (やめろ!) そう叫んで必死に抗おうとした時、彼の意識は暗闇に放り出された。 |
異空間の中から自分たちを見ていた巨人は、謎の小宇宙に気付いた途端、海上に視線を移して姿を消す。 再び海流はその烈しい流れを止め、黒い何かは静かに揺らめく。 (奴は地上に向かったのか……?) そしてソレントが深呼吸をした時、 異様な事態に気付いた仲間から連絡が来る。 彼は巨人族の誰かが通り過ぎたと言うしかなかった。 |
冥王ハーデスは無理やり瞬の意識を捩じ伏せると、ネビュラチェーンをきつく握る。 『……ヘルメスめ。あれ程奴を許すなと言ったのに、手加減をしたな』 今、彼の足元で黒い空間が開きつつあった。 亡霊たちの声はその穴に吸い込まれていく。 そして二つの光る目が、ハーデスの事を見ていた。 『地母神ガイア。姉上と冥妃に手は出させない。 今一度、ヒッポリュトスをタルタロスに叩き落としてくれる』 彼の体から黒い闘気が迸った。 |
一瞬の暗闇の後、今度は膨大な光に飲み込まれる。 瞬はあまりの眩しさに目を瞑った。 そして周囲が落ち着いた様子が感じられたので恐る恐る目を開けると、目の前には何かの映像のようなモノが現れている。 (あれっ?) 瞬は幻のように見え隠れする光景の中に知っている人物の姿を発見する。 服装こそ古代ギリシャを思わせるが、確かにその青年は自分の知っている人物にそっくりだった。 (アフロディーテ???) 青年は誰かを説得しているかのようだったが、その話の内容を聞いていくうちに瞬はこの場面がパリスの記憶の再現である事に気がつく。 そして二人は、ヘレネという女性をスパルタから連れ出す事で口論をしていたのだ。 青年は争いの元になるから止めろと言い、パリスは絶対に連れ出すと言う。 何故其処までヘレネに執着するのか。 青年が怒って自分の目の前から去って行った時、瞬はパリスの考えている事を何故か感じ取る事が出来た。 「自分の兄さんに自分を討たせる?」 |
滅びの王子に対して最初から味方でいてくれた兄ヘクトル。 トロイアの英雄であり、パリスにとっても誇りであった。 しかし女神ヘラや女神アテナの贈り物は、彼にとって実兄と対決してこそのみ手に入れられる代物だった。 そうでなければ女神の贈り物を他人は誰も納得しないだろう。 だからそれは絶対に欲しくはない。 だが、このままでは何時か自分は兄を滅ぼすかもしれない。 ならば兄が自分を討つ為の大義名分を作ろう。 復讐の女神たちすら兄に味方をするであろう理由を……。 |
「何でそんな方法を選ぶんだ……。 |