INDEX

続・結界 4

息が止まるかと思うほどの激痛。
だが彼は、この一撃を避けるわけにはいかなかった。

一輝はギルティーの拳を体に受け、過去の忌まわしい記憶が蘇る。
そんな彼の表情に、相手は薄く笑っていた。
「一輝!」
エスメラルダは思わず声を上げる。
だが、彼女が一輝に駆け寄りそうになるのを貴鬼が止めた。
「エスメラルダさん。近づいちゃ駄目だ!」
彼があえて攻撃を身に受けたのは、背後にいるエスメラルダたちを守る為。
今戦っている場所では、エスメラルダも貴鬼も直線的にしか動けないのだ。
そして貴鬼がエスメラルダを連れて離れようとすると、ギルティーは素早く拳圧で付近の岩を砕く。
とっさに貴鬼がサイコキネシスでエスメラルダの事を守ったが、飛び散る小石の様子もさることながら 、抉られた岩壁の凄さに彼女は動けなくなってしまう。
『逃がさぬ……』
ぞっとするようなギルティーの声が聞こえた時、エスメラルダはパンドラから預かった小袋をきつく握った。

(パリスを捉える!)
瞬が滅びの王子に手を伸ばす。
その刹那、パリスのネビュラチェーンは二人の想像を超えた行動をした。
「な……なんで……」
自分の腕の中に倒れこむ王子。
その背後には二本のチェーンが深々と突き刺さっていた。

「パリス!」
そのチェーンはパリスと一緒に自分を刺そうとしていたのだ。
謎に満ちた黒いアンドロメダの聖衣は、本来守るべき闘士ごと敵を倒すという行動を起こしたのである。
だが、瞬の神聖衣に傷一つ付いていない。
それに冥王の影響力の下にある為か、パリスの闘衣とネビュラチェーンは徐々に石化し始める。
(まさか……これが聖衣の反抗なのか?)
瞬は何が何だか判らないまま、パリスの体を支える。
そんな彼の耳に、王子の言葉が聞こえてきた。
『兄上……』
瞬は驚きのあまりパリスの顔を見ようとする。
その時、生暖かい風と共に獣の唸り声が聞こえ、瞬のネビュラチェーンが防御の体制を取った。

聞こえてくる声は、パリスへの怒りに満ちていた。
そして彼自身の脳裏に意外な存在の声が響く。

仮面を付けていない女性の聖闘士。
しかも彼女はアスクレーピオスを示す蛇使い座の聖衣をまとっている。
ミーノスはここにアイアコスが居ない事を残念に思った。
彼がいったいどういう行動を示すのか見てみたかったのである。

そして観察されている事に気づいたシャイナが表情をこわばらせた時、彼女の目の前に蠍座の黄金聖闘士の背中が現れる。
「……」
「こいつの事を見るのはやめてもらおう」
ミロがシャイナを自分の背後に隠したのである。
その不機嫌さを露にした口調に、周囲の雰囲気は一変した。
だが、それは沙織の言葉によって事なきを得る。
「ミロ。天貴星のグリフォンは、今は敵ではありません。
その攻撃的な小宇宙を収めなさい。
そしてグリフォンも、蛇使い座の事は無視しなさい。
この者は貴方がたの驚異となる資質の所有者ではありません」
闘いの女神はややキツイ眼差しでミーノスを見つめる。
「もし私の言葉を聞き入れる気がないのなら、大地と冥界の女神に抗議する用意も有ります」
静かではあったが有無を言わせない強い言葉。
ミーノスは素直に自分を非礼を詫びた。
「輝ける瞳の女神。
不躾なる振る舞い、幾重にもお詫びいたします。
ただ、我々も太古から常に、アスクレーピオスの技には警戒をせねばなりません。
ですが、今回は貴女の一言を得ましたので、女神の護衛者でもある蛇使い座に敵対するような真似はしない事を約束しましょう」
その返事に、沙織は表情を和らげる。
「貴方の言葉は冥闘士達の総意と取っても良いですね」
「我等の王であるハーデス様の命令が下されない限りは……」
その言葉が終わるか終わらないかと言う時、周囲の空気がいきなり重く冷たいものになった。

「ミーノス様、この気配は……」
急激に感じた気配に、ゴードンは緊張した面持ちになる。
「まさかとは思いますが、行かねばならないでしょう」
そう言ってミーノスは沙織の方を向く。
「女神アテナ。我々が直接協力できるのは此処までです」
沙織は彼の言葉に頷く。
そしてミーノスは彼女に一礼すると返事を聞かずにその場を離れる。
ゴードンはその後を追った。
「……」
春麗は二人を見送りながら、小さく頭を下げる。

「女神アテナ。この気配はまさか……」
シオンの問いに沙織は手に持っている白い杖を見た。
「ギガントマキアの宿縁は切れていなかったと言う事でしょう」
そして彼女はネックレスを外すと、中心に飾られていた青い宝石を握りしめる。