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続・結界 3

今まで感じていた空気の流れが変わった事に瞬は気付く。
(まさか……)
異様な気配を感じた途端、影からチェーンが瞬の顔をめがけて飛んでくる。
瞬は間一髪で、その攻撃を避けた。


唸る様な獣の声。
アフロディーテは何かに気づき、ポリュデウケースの方を睨み付けた。
「……貴方はこうなる事を知っていたのか」
その様子に相手は薄く笑った。


光の粒子は緩やかに渦を巻く。
その中から現れたのは、アンドロメダ座の神聖衣と同じような黒い闘衣を纏う少年だった。
瞬の頭脳に、少年の声が直接響く。

彼は自分の名を『パリス』と言った。


トロイアの王プリアモスとその妻ヘカベーの息子であるパリスには、滅びの宿命が付きまとっていた。
それゆえに彼は幼い頃にイーデー山中に棄てられてしまう。
だが、王の命により彼を棄てた召使自身が彼を拾い育てた。
そして後に、彼は王に会い我が子と認めてもらうが、滅びは彼を逃しはしなかった。
英雄ペーレウスと女神テティスの婚礼の時に投げ込まれた黄金の林檎。
最も美しい者へと記された林檎の所有権を巡り、その審判役に選ばれたのである。
この審判は、彼が誰を選んだ所で禍根を残す事に変わりは無かった。


「ネビュラチェーン!」
相手は聖闘士ではない筈なのだが、巧みにチェーンを使って瞬に攻撃を繰り出す。
その動きは的確だった。


各神殿より女神たちの代弁者がパリスの元にやって来る。
女神ヘラの巫女は、全アジアの王となる事を約束するという。
女神アテナの所は、聖域からの使者が戦いにおける勝利と智を。
そして女神アフロディーテの神殿の使者は、人間の中で最も美しいといわれるスパルタのヘレネを与えると言った。
元々女神アフロディーテはパリスにとって、遠縁の青年の母神。
そして彼は青年に対して信頼を寄せていた。

結局、パリスは黄金の林檎の所有者を女神アフロディーテに決める。


敵のチェーンは一分の隙もなく完璧にパリスを守る。
「ブーメラン・ショット!」
瞬は背後からの攻撃を試みたが、やはり向こうのチェーンは素早くそれを弾いた。
(あれっ?)
確かにパリスは悠然と立ってはいる。
だが、彼は何か不自然なものを感じた。
(もしかしてパリスはチェーンの動きに気付いていないのか?)
万が一、今までの防御が闘衣の性能に依存するものなら勝機があるかもしれない。
そう判断した瞬間、彼はチェーンの攻撃は闘衣に集中させ、自らパリスを捉えるべく動いた。