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続・結界 2

呪術の光が強まった神殿。
外から感じる鋭敏な小宇宙の気配に、ポリュデウケースは息をのんだ。
(まさか、これがあの男の小宇宙だと……)
サガの弟。 そして兄と同じシードラゴンの海闘士である男。
ポリュデウケースは厳しい眼差しで、気配を感じた方向を見つめる。

一方この事態に、デスマスクは楽しそうにアフロディーテに話しかける。
「おい、この気配は……」
「……カノンの小宇宙だと思うが……」
魚座の黄金聖闘士は自分の思ったままに答えたが、何故か確証が持てなかった。
「しかし、海将軍どもも嫌な奴を寄越したな……」
腕を組みながら蟹座の黄金聖闘士は、壁に突き刺さっている銀の矢を見る。
「……」
「冥界と空間が曖昧な所へギャラクシアン・エクスプロージョンみたいなヤツをやられてみろ。
こんな島、下手をすれば簡単に吹き飛ぶぞ」
その時、何処からか獣の様な声が響いてきた。


薄いガラスが砕ける様な、鈴の音が響いているかの様な、そんな繊細な音色。
テティスは最初、何処かの家に人が居てグラスを落としたのかと思った。
だが、真に砕けたものの正体は違っていた。
(まさか、空間が……???)
海闘士の頂点に立つ男と謎の闘士の周辺は、明らかに禍々しい色を伴った空間に覆われていた。
そしてその現象は、徐々に広がりを見せている。

だが二人の男には、そんな事は関係なかった。


「この小宇宙はカノンのようです」
シオンの言葉に沙織は頷く。
だが、判った所でどうする事も出来ない。
海で何かがあり、その為にカノンはデスクィーン島にやってきたのだろう。
しかし彼の技は今の島では最も危険なのである。
沙織は胸に掛けていたペンダントに手を当てた。
(パラス……)
宝飾品である青い宝石が、一瞬だけ仄かに輝いた。

教皇シオンの命により地上へ向かった紫龍。
その背中に春麗は最後まで言葉をかける事が出来なかった。
行かないでと言える状態ではない事は理性では判っている。
だが、素直に頑張ってと言えない。
ただ、見送る事しか出来なかった。
「お前はドラゴンの聖闘士の身内か?」
いきなり話しかけられて、春麗は驚いてしまう。
そこに居たのは紫龍と同じような長い黒髪の青年冥闘士。
「……」
春麗は咄嗟に名前が出てこない事と返事に困った事で、思わず沈黙してしまう。
「違うのか?
あの男はお前の事を見ていたが」
ゴードンの言葉に彼女はキョトンとした後、顔が赤くなった。
「えっ??」
意外な言葉なので、それが頭の中をグルグルと廻ってしまう。
「紫龍が私を……。本当ですか……?」
彼女の対応にゴードンは眉を顰めた。
「あの男の事が心配かもしれないが、今は生き残る事を考えていろ」
そのキツイ口調に春麗はドキリとしてしまう。
「あ……あの……」
しかし、ゴードンは春麗の言葉をさえぎる。
「ここは戦場だ。
あの男の心配も結構だが、それは自分が生き残れてこその話だ。
お前が愚かな行動をした事で、ミーノス様が苦境に立たされる様な事態はあってはならない。
今は自分の役目に集中しろ」
いきなりの説教に彼女はゴードンの顔を見るが、涙が出そうになって目の前の青年の姿がぼやける。
だが、此処で泣けばそれこそ迷惑以外の何物でも無い。
春麗は急いで涙を拭くと、彼を睨んだ。
「貴方に言われなくても、絶対にこの箱を老師の所へ持っていきます」
するとゴードンは、少し驚いた様な表情になったが直ぐに元の無表情になる。
「……それなら頑張れよ」
ゴードンはそう言うと直ぐに春麗から離れた。
何しろ一部の人間が事の次第によってはゴードンを攻撃しかねなかったからである。

(ゴードンが女性に気遣いをするとは、珍しいものが見れましたね)
この様子に、グリフォンの冥闘士は笑いを堪えるのに必死だった。