デスクィーン島の一角にて、カノンたちは粗末な人家の前にいた。
家から人の気配はしない。 「私は此処に居たのですか?」 テティスの問いを、彼は否定する。 不慣れな島を支配する暗闇。 そんな場所で謎の遺跡に繋がる地底の広場へ向かうのは難しい。
何しろカノンは兄と共に自分達を攻撃するモノから逃れているうちに、あの大穴に落ちたのである。 とにかく逢ヶ魔刻に彼らは様子を見ながら島を探索していたのだが、それらしい場所は見つからない。 そして先日体験した様な妖気の出現も無かった。
そうしていくうちに、いつの間にか人が住んでいたのであろう地域にやって来たのである。
「以前は人が居たみたいですね」 しかし、建物の朽ち方を見ていると、随分前に人が出て行ったかのような状態だった。
「とにかく、何が出てくるか判らない場所だ。 テティスも気をつけろ」 カノンがそう言った瞬間、島のあちこちから巨大な光の柱が出現した。
「!」
轟音のようなモノは無く、ただ、巨大な光の柱が周囲を照らす。 そして二人の居る小屋の周辺に周囲から光の線が大地を伝わり、そして模様を描く。 その美しい光景にテティスは言葉を失い、カノンは素早く周囲を見回した。
大地に描かれた線画はかなり広範囲にわたっており、カノンはその模様に見覚えがあった。 (あの遺跡の扉や中に描かれていたものと似ている!) そうなると此処は謎の遺跡と何か関係があるのに違いない。
カノンの足元では光がバチバチと火花を散らせていた。
『……』
カノンの耳に、誰かの声が届く。
彼は周囲を見回した。
『……獲物……』
二人の目の前で、光は人の形となり一人の貧相な農夫の姿を取る。
一輝かエスメラルダがこの場に居れば、その農夫に対して反応もあっただろうが、生憎カノンもテティスも、それが何を意味するのかが判らない。
『……』
それは農夫の形から再び別の姿を取る。
『我は……ラピタイ族の王ペイリトオス……。
此処でシードラゴンの海将軍に逢えるとは、神に感謝せねばなるまい』
そう言いながら現れた青年の姿に、カノンは自分の中で何かが脈打った。
嫌悪とも不快とも言えるし、警戒心とも呼べる感情。 そして、それ以上に感じる怒り。 カノンは間髪入れずに、相手に向かって技を繰り出していた。 |