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結界 5

「何処かで戦闘が始まった様だな」
突然感じた激しい小宇宙のぶつかり合いに、ポリュデウケースは思わず笑みを漏らした。
魚座の黄金聖闘士には判らないだろうが、彼はそれが誰のものなのか知っていた。
何故なら、あの時代でも『彼』は『奴』に会った事が無いのだ。
異国の言葉で『罪悪』と呼ばれた男。
ポリュデウケースにとって、幾度殺しても飽き足らない存在。

(テーセウス。 貴様はこの島に永遠に捕らわれるがいい)

太古の英雄に与えられた、滅びる事が出来ないという運命。
何しろこの島にいる限り『罪悪』は存在し、負の意識が力を与え続けているのだ。
それを示すかの様に、神殿内の呪術の紋様はハッキリとした光の線を描いていた。

その頃星矢達は、各々ミロから教えられた場所に向かう。
呪術の威力が地上に洩れているのだろうか?
デスクィーン島の大地に所々光る場所があり、彼らは暗闇の中でも巧みにその場所を避けた。
そして彼らは巨大な光の柱に辿り着いたのだが……。

「幻?」
ようやっと沙織の元へやって来れたミロとシャイナの説明に、誰もが困惑していた。
「はい。
光の柱に入ってみたのですが、特に攻撃は有りませんでした。
ただ、時々光の中でペガサス等の紋章が見えるだけです」
掴もうとしても素通りされるだけなので、ミロは何も出来ず終いだったのだ。
「多分、まだ何か細工があるのでしょう」
ミーノスの言葉に沙織は手に持っている杖を見た。

(聖闘士たちは呪術については管轄外だわ。
こうなると頼みの綱は、瞬が突破口を作ってくれる事……)
隠れ兜がどれ程、自分達に有効に働くか。
そして神聖衣が何時まで所有者である聖闘士たちの味方で居てくれるか。
不安材料には事欠かない。
だが、今はそれに賭けるしかなかった。

ミロたちの説明を聞いて、シオンは自分の弟子の元に近付いた。
「ムウ。一応言っておく」
師匠が小声で話しかける事に、彼は一抹の不安を覚える。
「何でしょうか?」
「……あの者達は、多分結界を破壊するまで此処には戻っては来ないだろう。
そしてこちらも既に時間が無い。
目の前の紋様の状態が不安定になったら、私は春麗を連れて童虎を探しに行く。
お前は此処に残り、女神を守れ」
ムウは驚きのあまり目を見張った。
だがシオンは言いたい事を言うと、直ぐにムウから離れ弟子に意見を言わせる隙を与えなかった。

(何故、師が自ら……)
本来シオンが聖域を離れて此処へ来たのは女神と少女達を脱出させる為の筈。
なのにその役目を弟子に譲るような行為に、ムウは納得がいかなかった。