「これは何だ?」
ラダマンティスの言葉に、パピヨンの冥闘士はあっさりと答える。
「ヴィーナー・マンデル・コンフェクトです」
菓子の名を言われても彼には何が何だか判らない。
「お前が作ったのか?」 「はい。大量のメレンゲがあったので作りました。 食材を無駄にするわけには行きません」 今夜は長丁場になるかもしれないので、女主人が疲弊しない様に一応何種類か甘いものを作っておいたと言われると、ラダマンティスとしては怒りにくい。
例えそれが、とんでもない量だとしても……。 「こちらは彼女達が作ってくれたラダマンティス様と私への夜食だそうです」 バスケットの中には奇麗に作られたクラブサンド。
かの婦人達は、二人が寝ずの番をするのだと思い込んだらしい。 実際に間違いではないのだが、ラダマンティスには彼女達がどんな思い込みで、この事態を納得したのかが逆に少々気になった。
パンドラはラダマンティスに無理矢理作らせた『某聖闘士を自陣へ引き込む為の草案』を読む事を止めると窓辺へと近付いた。
護衛者は彼女に休息を取らせる為に、厨房へお茶の用意をしに席を外している。 (今夜、巨人族との闘いが行われるのか……) 城の中は静かすぎて、自分が取り残された様な気になる。
彼女は得体の知れない不安に駆られ、腰に付けていた黒い短剣を手にとった。 「……」 黒い剣に祈りを捧げる。 ほとんど日課と言っても良い儀式。
だが、パンドラはこうする事で自分を奮い立たせた。 (巨人族に負ける訳にはいかない) 彼女は再び席に戻ると、草案に目を通す。 それから必要資料の種類をチェック。
そこへラダマンティスが、ティーセットを持って部屋に入ってきた。
同じ頃、ミューは再び森へフェアリーを放す。 幻の蝶は、ヒラヒラと闇の中へ入って行った。
その様子を二つの目が森の中から見つめる。 だが、それはフェアリーに悟られないように、再び闇へと溶け込んだのだった。 |