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結界 1

黒の神殿に到着した矢は最奥の壁に刺さり、ようやく飛ぶ力を失う。
それと同時に、神殿内部では呪術の紋様が光を放ち、今度は昼間の様に明るい。
「これは凄いな」
デスマスクはニヤニヤと笑いながら、天井近くに突き刺さっている白銀の矢を見上げた。
「これは聖域の秘密兵器か?」
しかし、アフロディーテは尚も厳しい眼差しで矢を見上げる。
(確かに呪術の視覚化は成功したが、この空間を維持している呪術媒体を破壊させなくては何にもならない……)
だが、広範囲に張りめぐらされた呪術を維持するものが、この場合物質的に大きなものである必要は無い。
力ある存在であれば、小石でも構わないのだ。
それを呪術に詳しくない聖闘士が見付けられるのか?

状況は依然として厳しかった。

呪術の影響のない場所を選んで通ったお蔭なのか、惑わされる事なく二人は地上へと向かう。
それ故か、同じ島に居る所為なのか逆に沙織や仲間の小宇宙を感じる。 これは相手も同じだった。
「ミロとシャイナがこの近くに居るようです」
ムウの言葉に、沙織達は安堵する。
だが、いくら小宇宙によるテレパシーが聖闘士同士で可能でも、得て不得手はあったりする。
ゆえに殆ど一方的にムウが話を進める事となった。
彼の強力な超能力なら何とか話を進められるからだ。
同じように超能力を持つミーノスでは、事態が混乱の一途を辿る事がありありと判っていた。
シオンは只、その様子をじっと観察する。

ムウからの情報で、沙織が島に来ているという事にミロは愕然とする。
自分達の不手際が原因で、女神をこのような危険地帯にやって来させた事にショックを受けたのだ。
その様子が向こうに伝わったのか、ムウからフォローとは言い難い慰めの言葉をかけられる。
「動揺するのは後にしなさい。
そう、女神からの伝言です。」
慈悲深くない台詞が、今は逆に有り難かった。


ミロとシャイナは、とにかく地上を目指す。
光の無い道を二人は駆け上がった。
しかし、外は彼らの想像を超えた状態になっていた。
「何だこれは……」
「光の……柱?」
シャイナもその光景に絶句する。
デスクィーン島の夜空に浮かび上がる四本の光の柱。
その光に照らし出された山との対比を考えると、その大きさは巨大の一言に尽きた。


当然、この様子はムウ達にも伝わる。
「どうやら外で、異変が起こった様です」
その様子を伝えると、ミーノスの表情が変わった。
「もしかすると、その光の柱が結界の役目を持っているのかもしれません」
ミロと再び連絡を取ってみると、確かに光の柱は四方に散らばっている可能性が高いという。
「とにかくこのままでは、春麗さんが童虎を探す事が出来ません。
それにこの矢の力が、何時まで持つか……」
矢そのものが効力を維持出来るのは、矢座の聖闘士の小宇宙と反発する呪術との力関係に因る部分が大きかったのである。
そしてここに居る闘士たちは、黄金聖闘士たちが闇の十二宮に捕えられてているであろう事に気付いていた。
何しろこのような防衛ラインが完璧な場所でなければ、彼らの気配を察知出来ない筈がない。
黄金聖闘士の小宇宙は、それだけ強い輝きを持っているのだ。
「それなら、まずは光の柱を壊せば良いのだろ」
星矢が来た道を戻ろうとする。
しかし、アルデバランに止められた。