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統べる者 4

「……では、どう決着を付けるというのだ。 ここで殺し合いをするのか?」
女神の復讐者は面白いと言いたげな笑みを浮かべる。
しかし、アフロディーテはそれを拒否した。
「これでも私は女神アテナの黄金聖闘士だ。 さすがにそれは私闘だろう」
今更何を言う。
と、デスマスクはツッコミを入れたくなった。
だがアフロディーテは彼の反応を無視した。
「私の要求する貴方の敗北の条件は、この呪術で守られた場所の機能停止だ。
夜明けまでに聖域に残っている聖闘士たちが、この条件を満たせなければ私の命を奪うがいい」
太古より自分の邪魔をし続けた男の言葉に、ポリュデウケースは少なからず驚いた。

(正気か!)
デスマスクもまた言葉を失う。
この時彼は、部屋を照らす炎の様な光が先程よりも小さくなっている事に気付いた。
(外が夜になって、闇の勢力が強まったという事か……)
つまり、ポリュデウケースがアフロディーテの要求を呑めば、約10時間後には何らかの結論が下される。

「……神話の頃よりの決着を、何も知らないであろう聖闘士たちに委ねるというのか?」
相手の要求の異様さに、光と闇の申し子は怪訝そうな顔をする。
だが、彼は頷く。
「既にやるべき事はやった。
もし聖闘士たちが今だに呑気な事をしていたら、そんな聖域など存続させる必要は無い」
魚座の黄金聖闘士の決意を、ポリュデウケースは了承する。
自分が長い時間を費やして作り上げた黒の聖域の防衛力に、絶対的な自信があったからである。
そして聖闘士は本来呪術に対して、ほとんど防御する術を持たない。
勝負は火を見るより明らかだった。
「その決意に免じて、私は神殿で夜明けが来るのを待つことにしよう」
封印し損ねた幾人かの黄金聖闘士達に関しては、この勝負が終わってからで良い。
彼はそう判断を下すと、黒の聖域の神殿に向かって歩き出した。

「で、俺はどう動けば良いんだ?
何も無ければ巨蟹宮で寝ているぞ」
デスマスクの態度にアフロディーテが呆れ返る。
「……お前の思考に手助けという言葉は無いのか?」
その言葉にデスマスクは笑う。
冗談だろ。
奴とお前との勝負に手を出す程、俺は野暮じゃない。
何だったら傍観者役をやってやる。ここは奴のテリトリー内だからな。
勝負の公平さを証明する者が居ないのでは、奴が不利だ」
蟹座の黄金聖闘士はどっちの味方なのか判らない台詞を堂々と言って、ポリュデウケースが去って行った方向へ歩き出した。
「……」
そしてアフロディーテも後に続く。

部屋の明かりは、ますます小さくなっていった。