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統べる者 3

「とにかく、誰を人質にしても無意味だ。
母達なら自分の身の安全よりも、聖域と英雄達を滅ぼす事を望む」
すると今まで傍観者だったデスマスクが、相槌を打ったのである。
「アフロディーテ。止めておけ。
こいつは全てを覚悟している。
説得するだけ時間の無駄だ。
面倒だから、俺がここで黄泉に送ってサガもろとも消した方が良い」
いきなり何もかも、無かった事にしようとまで言い出す同胞に、アフロディーテは大声を出してしまう。
「デスマスク。 何を寝ぼけた事を言っているんだ!」
だが、デスマスクは平然と言葉を続ける。
「サガの肉体ごと黄泉に落とせば、後は冥闘士たちが勝手に裁くだろう」
同胞を救う気まるで無しの台詞に、ポリュデウケースも笑みを浮かべる。
「投げやりだが賢いな」
だが次の瞬間、デスマスクの言葉に部屋の空気が凍りついた。
「テティスも無事に海へ帰ったんだ。
向こうがこいつを許さないだろうから、わざわざアフロディーテが手を下す事は無い」
挑戦的な目で蟹座の黄金聖闘士は、目の前の神を見る。
相手は目を見開いていた。

「テティスが無事だと……」
「お前が手を下したと思っていても、ちゃんと助け出されていたんだよ。
残念だったな」
ポリュデウケースの脳裏に、過去の記憶が蘇る。
彼としては、トロイア戦争はアガメムノンの息子であるオレステースの参戦まで戦を引き延ばしたかった。
だが、女神テティスがアキレウスという青年をトロイア戦争に参戦させてたので、戦の終焉が早まったのである。
復讐者にとって彼女は邪魔としか言いようが無かった。
そして憎しみの対象だった。
何故なら彼女は自分達から兄カストールを奪っておきながら、他の男に嫁いだ女神。
兄が聖域にいれば、妹達は無事だった筈なのだから。

(時間を置いた為に、海の女神達に警戒されるのは面倒だ)

(今すぐにでも女神テティスを……)

(そして、あの忌まわしい亡霊もこの手で)

彼は迷う事なく、自らの望みに従う事にした。