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統べる者 2

風が闇の十二宮を通り抜けるたびに、人とも獣とも判別しにくい声が部屋に響く。
「どうした。遠縁の王子を助けに行かないのか?」
ポリュデウケースは挑戦的な眼差しでアフロディーテを見る。
すると彼は先程の厳しい眼差しを急に和らげた。
「……いい加減。ここら辺で決着をつけないか?」
その言葉に、今度は不死の神の方が驚く。
「何っ?」
「お互いに手持ちのカードは殆ど出した。
ここで決着を付けないと、この先お互いに潰し合いになるのは分かりきっている。
それは幾らなんでも不毛だ」
だが、ポリュデウケースは怒りに満ちた表情になる。
「……貴様に未来を与えると思っているのか」
だが、アフロディーテは動じない。
むしろ美しい笑みすら見せながら、それにそぐわない台詞を言う。
「それはお互いさまだ」
デスマスクはこの様子に、
(面倒な事に関わった)
と、己の不運を呪いそうになっていた。


天上界も聖域も英雄も……全て滅びてしまえ。
女神ネメシスとスパルタの王妃レダの果てる事の無い怒り。
事実トロイア戦争により、殆どの英雄達は非業の死を遂げる。
生き残ったのはギリシャ側では女神アテナの加護を得たオデッセウス。
トロイア側は女神アフロディーテを母に持つ『彼』だった。


「お前は私が了承すると思っているのか?
今や、お前は敵だ」
当時、『彼』を無視したのは女神アフロディーテの息子ゆえ。
だが、それが仇となったのであれば、神々の思惑など無視してポリュデウケースは『彼』を倒さなくてはならない。
そうしなければ全てが無駄になるから。
ポリュデウケースは威圧的な態度で指を鳴らした。

再び部屋に風が吹き、不気味な声を運んでくる。

魚座の黄金聖闘士は相手の様子に薄く笑った。
「では、王妃レダは私が滅びるのを見届けにやってきたのか?」
養母の名を相手から出され、ポリュデウケースは眉を顰める。
「養母(はは)が此処に来ているだと……。
質の悪い冗談だな。
彼女は私の母神と完全に同化した。 もう人ではない」


娘達の死により、王妃レダは女神ネメシスと意識のみならず肉体までも融合してしまう。
完全なる同化。
これにより女神ネメシスは、人の怒りを持ち続ける事になったのである。


自分の腕を掴んで聖域を崩壊させる事を訴えた母親達。
ポリュデウケースは当時の事を思い出して自嘲気味に笑った。
そしてトロイア戦争に英雄を送り込んだ、憎き女神の事も思い出してしまう。