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統べる者 1

瞬間移動を行えば、シオンが沙織を目的地へ運ぶのに時間はかからない。
それでも彼女はとても急いでいた。
外との通信手段を持つ村の豪農の家では、人の良さそうな老婦人が沙織とシオンの為にお茶を用意する。
シオンが一緒の部屋に居るのは、本来女神の養い親側の事は関知しない方が良いのかもしれないが、聖域側が何も知らないというのは女神に負担をかける事なので、それを避ける為である。
沙織もそのつもりで一人で電話をするとは言わない。
「なんですって、それは何時の話なの!」
彼には電話の内容はハッキリとは判らなかったが、日本で誰かが居なくなったらしい事は判った。
「その時間には美穂さんは星の子学園に居たのね!」
女神の切羽詰まった口調。
だが、シオンは別の事で驚いた。
(ミホサン?)
夢の中で会った少女を思い出す。
(日本人にはその名が多いのか?)
あの少女が日本人かもしれないと考えると、シオンは探そうとすれば会えるのではないかと考えてしまう。
(その時間を作るには、今いる聖闘士たちを厳しく鍛え直さないとならないのだが……)
教皇の思惑とは別に、女神の方は物凄い剣幕で怒鳴ると電話を切っていた。
「女神アテナ。どなたか居なくなったのですか?」
怒りを抑えてもらう為に、彼は穏やかに話しかける。
しかし、彼女の怒りは治まらない。
「やられたわ……。財団内にまさか伏兵が居たなんて……」
沙織はシオンに状況を話す。
話を聞いた彼はサポート要員として聖域側の関係者に協力させる為、この家の主を呼んだ。


「どうしたの?」
そう星華に尋ねられたが、別に呼んだ訳ではないので星矢と瞬は何でもないと答えるしかない。
すると彼女は弟の顔をじっと見た。
「星矢も行くの?」
姉の問いに星矢は首を縦に振る。
「大丈夫だよ。 俺、ちゃんと帰ってくるから!」
星矢は姉をこのまま一番危ない十二宮前に居させるわけにもいかず、聖域の町へと連れて行く事にした。
だが、正直言って誰に姉を預ければいいのかが判らない。
「邪武。誰か居ないか?」
修行地が聖域である筈の星矢がこのような問いをする事に、邪武は腹立たしさを覚えて怒鳴る。
「聖衣を纏えない奴は大人しくしていろ!」
あまりにも正論だが、星矢は特に気にしない。
「ここに留まっていたら、ペガサスの聖衣は俺を聖闘士とは認めないと思う。
これは俺と聖衣の闘いだ。絶対にデスクィーン島へ行く」
神聖衣を得た少年に課せられた試練。
邪武は怒鳴り足りなかったが、星矢の決意を前に言葉を続けるのを諦めた。
そして自分の師匠の知り合いだという老婦人の事を教えた。
「引退した巫女らしい。
オレの師匠の名を言えば星華さんを預かってくれる筈だ」
星矢は邪武からその老婦人の居場所を教えてもらうと、ついでにペガサスの神聖衣を移動させようとしたのだが、聖衣は今度は大地に貼り付いたかのようにウンともスンとも言わない。
その様子にアルデバランが手伝おうとしたが、ムウがそれを止める。
「女神の血により神聖衣は力を得ています。
それが同じ星座の宿命を持つ聖闘士に対して反発を起こしているのなら、今は何もしない方がいいでしょう」
むしろ力業は危険だとまで言う。
傍には今まさに力ある武器によって傷だらけになっているアルゲティが居る。
「……」
星矢はペガサスの神聖衣を移動させるのを諦めるしかなかった。