怒りに呑み込まれそうになる感覚。
これは冥王が自分を依代にしていた時にも感じた。
自分の大切な者たちを奪おうとする存在を、何故赦さなくてはならない。
何故、彼女は頼ってはくれないのだ?
冥王の声で聞こえてきた言葉に、瞬は我に返る。 そしてその意識を振り払うかの様に、自分が寄り掛かっていた柱に拳を打ちつける。
「瞬!」 柱はその一撃で粉砕されてしまう。 「ごめん……。ちょっと八つ当たりしただけだよ」 洒落にならない破壊活動を八つ当たりと言われても、それじゃぁ仕方ないなとは言えない闘士達だった。
「どうしたんだよ」 星矢が駆け寄る。 「……星矢。 ジュネさんは初めて僕が聖域に行く時、それを止めに来てくれた」 「……覚えている」
あの時、瞬は大事そうに姉弟子を抱き抱えていた。 そしてジュネは仮面を外していたので星矢は慌てたのである。 ところが瞬は星矢の言う聖域側の解釈にそれこそ驚き睨むので、その場に居た闘士達は場所によって仮面の掟の意味合いが違っている事を知ったのだった。
「結局僕は、彼女が引き止めるのを振り切って聖域に向かったけど……。 今度は……ジュネさんは僕に止めさせてくれなかった……」 それが無理な話なのは瞬自身、判っている。
だからこそ八つ当たりなのである。
「瞬。絶対に見つかるさ! 瞬が諦めたりしなければ!!」 星矢の言葉に瞬は頷く。 「俺だって諦めなかったから見付ける事が……」
そういった瞬間、星矢の脳裏に姉ではない誰かの姿が思い浮かんだ。 (あれっ?) 鮮やかな色の海と遠くを見つめる誰か。 一瞬だけの美しい情景に、星矢はそれ以上言葉が出なかった。
しかし、瞬は納得した様だった。 「そうだね。星矢もお姉さんを見付けられたんだ。 僕だって……」 二人が星華の方を見る。 彼女の方はというと、弟が自分の方を見たので呼んだのかと考えたらしく二人に近付いた。 |