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焦燥 5

春麗とエスメラルダが魔鈴と一緒に社殿の方へ行く。
紫龍が何か言えたわけではないが、一輝の方は相変わらず沈黙している事に、逆に周囲が首を傾げる。
「何か言うかと思いましたが……?」
沙織は一輝の様子に驚く。
「エリスがエスメラルダをサガに会わせようとしたのだ。
何かしら理由を捏造しても、彼女をデスクィーン島へ連れて行くつもりだったんだろう」
乱暴な言い方ではあるが、怒りが向けられている訳ではない。
「……確かにそう言われても仕方ないですね。
彼女はデスクィーン島の遺跡に閉じ込められていた。そんな彼女を聖域に残したら、捉え続けた存在が混乱に乗じて奪いに来るかもしれない。
そうなったら何も判らなくなるから、むしろ彼女を島へ連れて行く。
そういう理由なら納得しますか?」
沙織の言葉に彼は返事をしない。
(サガに会わせるという馬鹿馬鹿しい理由よりも納得出来る )
実は一輝もそれを考えてしまい、逆にエスメラルダを此処に残しておきたくなかったのである。
「ところで先程も言った様に此れからデスクィーン島へ行く事になりますが、相手がポリュデウケースでは島は既に対聖闘士戦の完璧な布陣が敷かれていると思います。
そしてあの場所で巨人族とも闘う事になります。
それでも貴方達に行ってもらわねばなりません」
沙織はこの場に居た闘士達の顔を見た。
そして全員が頷く。
この時、星華が階段の方を向いて驚きの声を上げる。

「どうしたんだ。星華姉さん?」
星矢達がつられて階段の方を見た時、そこに立って居たのはヘラクレス座のアルデティ。
彼は傷ついた身体で大弓と矢を持っていた。
「それは!」
大弓の正体に気付いたシオンが、アルゲティのもとに近付く。
「ヘラクレスの弓と矢!
無事だったのか」
教皇シオンの言葉にアルゲティは頷く。
「謀反人の元から隠し通しました」
年若いヘラクレス座の聖闘士の返事に、シオンは裏の事情を察知したが何も言わなかった。
彼はアルゲティに女神アテナの前へ行く様、言葉をかける。
アルゲティは一瞬身体を硬直させたが、そのまま静かに前へ進む。
「ヘラクレスの弓と矢?」
星矢は紫龍に尋ねるが、紫龍も知らないと答える。
他のメンバーも知らないと言った。
ただ、黄金聖闘士たちは沈黙を守る。

沙織はじっとヘラクレス座の聖闘士を見た。
彼は沙織の前で恭しく片膝を床に着けて礼をしたまま、自分が此処に来た理由を述べた。
「女神アテナ。ヘラクレスの弓と矢の使用許可を……」
数秒の沈黙。 そして沙織は答える。
「行方不明と思い半ば諦めていましたが、よく守り通しました。
許可します」
彼はより一層深く頭を下げる。
「沙織さん。それはいったい何なんだ?」
星矢の問いに、沙織は実際に見れば判るといって詳しい事は何も言わなかった。