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焦燥 4

「どうしたんだ!」
一分も経たない内にアルゲティが小屋の前に現れる。
「……この中にトレミーが居るんだ」
「なにっ!」
「この炎の原因は、ヘラクレスの弓と矢だ。
トレミーは星の宿命によりそれらを手にしようとしたのだが、いきなり炎が上がった」
ダイダロスの説明にアルゲティは驚く。
「ヘラクレスの弓と矢だと……」
この反応にダイダロスは、彼もまた知らなかったのかと思った。
だが、それは違っていた。
「ここにあったのか……」

アルゲティは自分の師匠から、聖域の秘宝とも言うべき弓と矢の存在を教えられていた。
しかし、師匠はそれが何処にあるのかは教えてはくれなかった。
そして例え仲間内にでも、その事を言ってはならないと厳命もされていた。
禁忌でもある武器使用に関わる事ゆえ、敵にその秘宝の存在を悟られてはならない様に沈黙を守れと言われていたのだ。
アルゲティはダイダロスに対し何故知っていたのかを問い詰めたかったが、今はそのような事をする暇は無い。
彼はケフェウス座の白銀聖闘士を一瞥すると、炎に包まれた小屋に向かって駆け出す。
「アルゲティ!」
仲間の叫び声が上がった途端、炎はその色を変える。

ヘラクレスの弓を掴む。
その直後に襲ってきた膨大なエネルギーと激痛に、トレミーは意識を失いそうになる。
『ここで諦めるか?』
魔矢の声が脳裏に響く。
「冗談じゃない!」
ここで自分が負けたら、仲間達の命が失われるのだ。
それが例え生意気な青銅聖闘士のペガサスでも、今は仲間なのである。
女神アテナの下に集うた者達を絶望の死地へは赴かせない。
その思いで、トレミーは弓を抱えた。
「トレミー!」
名を呼ばれた時、それが誰なのか彼は振り返らずとも判った。
「ア、アルゲティか……」
「弓は俺が持つ!
お前は矢の方を抑えろ」
アルゲティはそう言って、トレミーの手から弓を奪う。
その途端、アルゲティの聖衣が仄かに光り始めた。
トレミーは体中を駆けめぐる激痛に耐えながら、銀色に光る矢に手を伸ばす。
『お前の持つ小宇宙の力を示せ。矢に力を与えろ!』
魔矢の声に従って、一本の細い武器を右手で掴んだ。