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焦燥 2

「冥王様が眠りにつかれている今、貴女の口から冥妃様の名を出されては、こちらも弱いですね。
では、向こうの準備が整ったら、こちらに来ますのでお連れしましょう。
ただ今の状態では、このお嬢さんは無防備過ぎます。そちらで出来売る限り、防御策を講じて下さい」
話がまとまりかけた時、今まで口を挟めなかった紫龍が声を荒らげた。
「何で春麗がデスクィーン島へ行かなければならないんだ。
冥闘士の協力が得られるのなら、彼らに箱を持ってもらえば良いのではないのか!」
この意見に他の闘士たちは頷く。
どう考えても闘士ではない少女を関わらせる事の方が異常。
だが、その問いに答えたのは意外にもシオンだった。
「箱を持つだけならな……」
その言葉に沙織は頷く。
そして彼女は春麗の前に立った。

「春麗さん。貴女に断りもなく話を進めていますが、実はエリスから箱はデスクィーン島の最も呪術の強い場所で蓋を開けろと言われました。
そして彼女の予測では、その場所に童虎が捕らわれている筈です。
ですから貴女に童虎を探して欲しいのです」
元々、呪術は沙織や聖闘士にとって馴染みの無い存在である。
だが、相手は逆に時間をかけて呪術を完成させた強者。
今回、何処まで聖闘士たちが有効に動けるか判らなかった。
そして呪術は完成している以上、その核には聖域にて唯一認められた武器を持ち、戦闘経験豊富な童虎が捕らわれているというのがエリスの読みだった。
「貴女なら童虎を見つけだせると確信しています」
沙織に言われた時、春麗は困惑と同時に心が高揚したのが判った。
(私でも役に立てるの?)
彼女は箱をもう一度見た後、頷く。
「春麗!」
紫龍は驚いたが、春麗は微笑んでいる。
「紫龍。私、頑張る」
自分を育ててくれた人に恩返しが出来る。
彼女は純粋に、その事が嬉しかった。

沙織はこの場に居た白銀聖闘士の魔鈴に春麗とエスメラルダを女官の所に連れて行く様命令する。
彼女は一礼すると二人を連れて町へ向かう。
瞬は兄の一輝が何か言うかと思ったが、彼は何も言わずに階段を降りるエスメラルダを見送っていた。

この様子を見ていたミーノスは、身体にまとわりつく得体の知れない気配に気付く。
(グリフォンが何かに反応しているのか?)
一瞬、冥衣が何かに向かって動こうとしていた様な気がした。
だが、それが何なのか知ろうと視線を動かした時には、既にグリフォンは何も反応しなくなっていた。
(何かの予兆でなければ良いが……)
彼はそう考えながらも冥界の準備を整えるべく、沙織に一礼すると姿を消した。
それに続く様にカノンもテティスを連れて海底神殿へと戻った。