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離愁 3

そして沙織たちは絶望的な場面を見ることになる。
エウリュディケーが真っ赤に染まった鎧から血を流して、倒れたのである。
それが合図であるかの様に、空間が歪み始めた。
「ユリティース!」
パンドラはその場面を見た後、気を失ってしまう。 ラダマンティスは彼女を抱き上げた。
その時、パンドラの所有している短剣がラダマンティスの冥衣に接触、彼の身体に痛みを与えた。
(この短剣に触れれば!)
彼は苦痛を感じたが、それでも彼女を誰かに託す事だけはしたくなかった。
(他の闘士がこの方に触れるなど、絶対にさせるものか!)
するとエリスが素早くラダマンティスの前に立つ。
「冥王。大事にする方法を間違えると、最愛の者を孤独に追いやるぞ」
そう言って、黒い短剣が納められているホルダーを、ラダマンティスの冥衣から移動させたのである。
途端に彼の身体から痛みがなくなる。
「……すまない……」
「ワイバーン、早く行け」
エリスに促されて、彼は素早く彼女を地上へと連れて行く。
争いの女神は再び壁の方を向いた。
沙織の方は声も出せずに、倒れたエウリュディケーを見続けている。
まるで魂が抜けてしまったかの様にである。
そしてシュラが沙織を壁から引き離す。
「……エウリュディケーが……」
心が何処かへ行ってしまったかの様に、彼女の目の焦点は合っていない。
「ここは危険です。アテナ!」
そこへカノンが壁に自分の拳を叩きつけた。
「シュラ。アテナを早く地上へお連れしろ! 俺はこの女を助ける」
シュラは頷くと沙織を抱えたまま、地上へと戻った。
しかし、カノンは何度も壁を拳で壊そうとするが、壁は彼の力を吸収するのみである。
(この女から、本当の事を聞き出さなければ!)
手を延ばせば届くところに、テティスの行方を知る者がいる。 なのに彼女を捕まえられない。
黒い霧がエウリュディケーの身体を包みはじめた。
「シードラゴン……、もうやめろ。
このまま居続ければ、今度はお前がこの空間に呑み込まれるぞ」
エリスは彼の腕を掴む。
「エリス!」
「ここで終わりにするつもりか」
争いの女神はそう言って、俯いたままカノンの腕を強く握った。
アイザックはエリスの背後に立つ。
彼はは話に聞いていたが、エリスが別の少女の姿をしている事に少し驚いてた。
だが、そんな事はおくびにも出さない。
「もう、危険だ。 悪いが抱えさせてもらうぞ」
彼はそう言って、エリスを抱き上げる。
「すまないな……」
その声はどこか震えていた。
「気にするな」
アイザックは、それ以上の事は何も言わなかった。