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離愁 2

ラダマンティスは夜の聖域を見て、不思議な気持ちになった。
つい四日前、聖戦開始の時は部下が聖域へやって来た。自分自身は今までここへ来た事はない。
なのに、何故か今の自分は山羊座の黄金聖闘士に肩を貸して、聖域にやって来ている。
(考えてみたら、俺を謀殺する為に騙したと考えても奇怪しくない)
一般的にはそう考えて良いのだが、反面、カノンとは冥界で死闘を繰り広げた事があるので、彼がそういう性格でない事は十分承知していた。
「山羊座。俺がこれ以上ここにいると混乱しか呼ばないから、帰らせてもらうぞ」
ラダマンティスは十二宮前の広場の階段に、彼を座らせた。
カノンは先にミロを白羊宮へ運びこんでいる。
「あぁ、手間をかけさせてすまなかった」
シュラは素直に謝罪の言葉を述べる。
戦いになれば死闘を演じる事もあるだろうが、一応聖戦は終わったのである。
女神が手を差し伸べた命に対して無礼な真似はしないというのが、彼の出した結論だった。
(今は、復活による混乱中で助かった)
ラダマンティスがそう思った時、彼らの居た広場が大きく揺れた。
「何だ!」
足元に大きな黒い鏡のようなものが、物凄い勢いで広がる。
そしてそれは広間いっぱいにまで及んだ。
ラダマンティスは足元を見た時、何かが光っているのを見つける。
(!)
それを見た瞬間、彼は足元の鏡の様な床を拳で砕いていた。
「どうしたんだ!」
ラダマンティスの行動に、シュラは驚いて立ち上がる。
「パンドラ様!」
彼は足元の空間に自分の女主人を見つけたのである。
そして白羊宮から異変を感じ取ったムウとカノンとアイザックが飛び出してきた。


「ラダマンティス!」
パンドラは自分の頭上に最も信頼しうる男の姿を見つけ、半泣きで彼の名を叫んだ。
「ラダマンティス!ラダマンティス!」
エウリュディケーは歪めた空間の出口に人影を見つけ、彼女たちの闘士がいることに気がつく。
しかし、意識が朦朧とし始めている。
その時、彼女の耳に懐かしい竪琴の音色が聞こえてきた。
(オルフェ……)
優しかった恋人の笑顔を思い出す。 エウリュディケーは最後の力を振り絞って叫んだ。
「闘士様!皆様をお返ししますから、お受け取りください」
彼女が空間を繋げた瞬間、数名の闘士が異空間にも関わらず、直ぐさま彼女たちを助けに飛び込む。
黒い霧は空間に満ちはじめていた。