地上を目指す道の途中で、沙織とパンドラは動けなくなってしまった。 「何でエリスが海将軍たちをタルタロスに……」
争いの女神の意外な望みに、二人は聞き違いをしているのではないかと思った。 「あの者たちは、エリスに何かしでかしたのか!」 パンドラがエリスの腕を掴む。
すると彼女は二人の反応を面白そうに笑った。 「ずっと昔の話だ。本当にやったら、只の八つ当たりになってしまう。 だから嫌がらせで勘弁してやろうと思っている」
エリスは再び歩き始めた。 「待って。何かあったの?」 沙織は呼びかけるが、争いの女神は反応せずに先へと進んでしまう。 二人は早足でエリスの後を追いかけた。
その時、三人の目の前で、道に黒い何かが染みだしていた。 「何だ、あれは」 エリスは眉を顰める。 黒い何かは路面に次々と出現した。 「皆様!ご無事でしたか」
後方からエウリュディケーの切羽詰まった声が聞こえてくる。 「エウリュディケー、どうしたんだ。 鎧の色が!」 懲罰の鎧の色がかなり赤くなっている。
試練終了後でも、帰り路の手伝いは罰則の規定に含まれていたのかもしれない。 「この道は色々な空間を利用しています。 ここはデスクィーン島の空間です。 何かあったに違いありません」
そう言って彼女は黒い杖を出した。 「エウリュディケー!手伝っちゃ駄目」 沙織が近付こうとしたが、何かがエウリュディケーの周りに壁を作っていた。
「ユリティース!やめるのだ」 パンドラも見えない壁を叩く。 そして彼女は自分の腰にある短剣に手をあてたが、 「!」 短剣が彼女を拒絶して触れなかった。
(ハーデスが使うなと言っておるのか?) パンドラは再びエウリュディケーの方を見た。 既に彼女は何やら呪文を呟いて、精神を集中させている。
「エリス。あなたは止められないの?!」 「無理だ。ここではヘカテ様の許可なければ力を使えないのは、アテナも判っているだろう」 空間世界の主の許可がなければ、そもそも力を発動させること事態が無理な話である。
二人はエウリュディケーを救う事が絶望的になった事を知った。 「これから強制的に道を歪めて、皆様を聖域までお送りします」 彼女は黒い杖を一度振る。すると三人の周りに光の壁が出来た。
黒い霧のようなものは、その光に跳ね返されて三人に近づけない。 「お願いよ。やめて! オルフェが悲しむわ」 沙織は光の壁を叩く。
「ユリティース、お前は私に嘘をつくつもりか。 冥界が落ち着いたら、私に会いに来てくれるのだろう」 そしてエウリュディケーの鎧は、ますます赤くなっていった。
再び黒い杖が振られる。 三人のいた場所の上空に大きな穴が現れた。 |