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離愁 1

地上を目指す道の途中で、沙織とパンドラは動けなくなってしまった。
「何でエリスが海将軍たちをタルタロスに……」
争いの女神の意外な望みに、二人は聞き違いをしているのではないかと思った。
「あの者たちは、エリスに何かしでかしたのか!」
パンドラがエリスの腕を掴む。
すると彼女は二人の反応を面白そうに笑った。
「ずっと昔の話だ。本当にやったら、只の八つ当たりになってしまう。
だから嫌がらせで勘弁してやろうと思っている」
エリスは再び歩き始めた。
「待って。何かあったの?」
沙織は呼びかけるが、争いの女神は反応せずに先へと進んでしまう。
二人は早足でエリスの後を追いかけた。
その時、三人の目の前で、道に黒い何かが染みだしていた。
「何だ、あれは」
エリスは眉を顰める。 黒い何かは路面に次々と出現した。
「皆様!ご無事でしたか」
後方からエウリュディケーの切羽詰まった声が聞こえてくる。
「エウリュディケー、どうしたんだ。 鎧の色が!」
懲罰の鎧の色がかなり赤くなっている。
試練終了後でも、帰り路の手伝いは罰則の規定に含まれていたのかもしれない。
「この道は色々な空間を利用しています。 ここはデスクィーン島の空間です。
何かあったに違いありません」
そう言って彼女は黒い杖を出した。
「エウリュディケー!手伝っちゃ駄目」
沙織が近付こうとしたが、何かがエウリュディケーの周りに壁を作っていた。
「ユリティース!やめるのだ」
パンドラも見えない壁を叩く。
そして彼女は自分の腰にある短剣に手をあてたが、
「!」
短剣が彼女を拒絶して触れなかった。
(ハーデスが使うなと言っておるのか?)
パンドラは再びエウリュディケーの方を見た。
既に彼女は何やら呪文を呟いて、精神を集中させている。
「エリス。あなたは止められないの?!」
「無理だ。ここではヘカテ様の許可なければ力を使えないのは、アテナも判っているだろう」
空間世界の主の許可がなければ、そもそも力を発動させること事態が無理な話である。
二人はエウリュディケーを救う事が絶望的になった事を知った。
「これから強制的に道を歪めて、皆様を聖域までお送りします」
彼女は黒い杖を一度振る。すると三人の周りに光の壁が出来た。
黒い霧のようなものは、その光に跳ね返されて三人に近づけない。
「お願いよ。やめて!
オルフェが悲しむわ」
沙織は光の壁を叩く。
「ユリティース、お前は私に嘘をつくつもりか。
冥界が落ち着いたら、私に会いに来てくれるのだろう」
そしてエウリュディケーの鎧は、ますます赤くなっていった。
再び黒い杖が振られる。
三人のいた場所の上空に大きな穴が現れた。