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不安 4

白羊宮ではムウから聞かされた聖域の現状に、シオンは一瞬スターヒルへ行き星の動きを読もうかと考える。
だが、不安がない訳ではない。
(戦乱時での星読みは、時間との勝負になる。それにアテナは今、古の女神の管理下におられるのだ。
読みきれる訳がない)
アテナは天の道理に{基本的に}従う女神だが、古の女神は昔から大地の道理そのものである。
それ故にこれから起こるであろう事態を今の段階で星から読む事は、幾ら聖域の教皇でも無理な話。
せめて古の女神の影響力が少なくならないと、逆に惑わされてしまうのだ。
今、彼に出来る事は、無事を祈る事だけ。
(童虎が自ら動くとは……。速やかに決着を付けようとしたのだろう)
サガが邪悪に完全に支配されたら、今度は被害が何処まで及ぶか判らないからない。
何故なら彼の中の邪悪が何を目的として動いているのか、はっきりとした事が未だに判らないのである。
(聖域の支配。確かにそれを目的と言うなら、それも良いだろう。
だが、支配した後に何をやろうと言うのだ?
現に支配した後のサガは不審な事もやっていたが、十三年間聖域を維持していた。
何故、性急な行動を起こしながらもそれ以降は教皇であり続けたのだ?
聖域の力を持ってすれば、日本にいる幼いアテナを見つけ、危害を加える事など簡単だった筈)
自分を一撃で倒した男。その男が再びアテナに宣戦布告をした。
今度は聖域全てを敵に回してである。
考えれば考えるほど、思考は堂々巡りしてしまう。
シオンは居ても立ってもいられなくなった。
「ムウ。聖域を見て廻るから、何かあったら連絡しろ」
彼はそう言って、弟子の返事も聞かずに部屋を出て行ってしまう。
ムウはやれやれといった表情をし、アイザックは茫然と見送った。
「随分、活動的な御方だ……」
「えぇ、師匠は言葉よりも行動の方が早い人なので、昔から説明不足には泣かされました。
多分、一人で考えたい事でもあるのでしょう」
しかし、ムウも今までの事は説明したが、一つだけシオンに伝えていない事があった。
それは自分には貴鬼という弟子がおり、今現在、老師の養女の様子を見に五老峰へ行っているという事である。
これは単純に今の事態に関係ないと思えたからである。
貴鬼の方でも何も言って来ないのだから、彼が五老峰は落ち着いていると思うも無理からぬ事だった。